食事の道具 ── 買う前に、今あるもので試せます

食べにくそうにしている。でも、食事の中身は変えたくない。

そういうとき、先に見るべきものがあります。道具です。

食事の姿勢と環境で、姿勢の話を書きました。この記事は、その続きです。作る前にできることが、まだ残っています。

なぜ道具から見るのか

食べにくそうにしていると、まず「やわらかくしよう」と考えます。

でも、形態を下げるのは本人にとって小さくない出来事です。「とりあえず刻む」の前にで書いたとおり、必要以上に下げると、使わなくなった力はそのまま落ちていきます。

道具を変えるだけで解決することが、実際にあります。 食べ物を変える前に、ここを一度見てください。

そして大事なのは、道具を変えるのに、買う必要はないことが多いということです。

病院でやっていたこと ── 持ち手にタオルを巻く

入院中、食事の道具は基本的に家族が持ってきていました。 病院が全部用意するわけではありません。家で使っていたスプーンや箸を、そのまま持ってこられる方が多かったです。

ただ、持ってきたものが本人に合っているとは限りません。握りにくそうにしている。 そういう場面がありました。

そのときにやっていたのが、これです。

持ち手にタオルを巻いて、太くする。

細い柄は、握る力が落ちていると持ちにくい。タオルを巻いて太くするだけで、掴みやすくなります。 病院にあるもので、すぐできます。

これは家でも同じです。新しいスプーンを買う前に、今あるスプーンの柄にタオルや布を巻いてみてください。 それで持てるようになるなら、買わなくていい。

握る力が落ちているサイン

入院で落ちるもので書いたように、入院や療養で落ちるもののひとつが、箸やスプーンを持つ力です。本人は言わないことが多いので、見て気づくしかありません。

  • スプーンを持つ手が震える
  • 途中で持ち替える
  • 食べはじめは使えていたのに、後半から落とすようになる

こういうことがあれば、力の問題かもしれません。 食べ物ではなく、道具を疑ってください。

家族には、面会のときに伝えていました

入院中、気づいたことは面会に来られたときに直接お伝えしていました。

「こうしたほうが食べやすそうです」

「介護用のスプーンも売っていますよ」

病院にいる間は、看護師が毎日その人の食事を見ています。どの道具が合っていて、どこで困っているかは、見ている側が一番分かります。

だから、入院中の方のご家族には、聞いてくださいとお伝えしたいです。

「食事のとき、スプーンは使えていますか」

「持ちにくそうにしていませんか」

「何か持ってきたほうがいいものはありますか」

聞かれれば答えます。 看護師の側から全部を言えるとは限りませんが、聞かれたことには必ず答えます。入院中に家族ができることでも書きましたが、聞くことは遠慮ではありません。

退院のときも同じです。退院後、最初の1週間で、食事の形態を聞いてくださいと書きました。道具のことも、同じタイミングで聞いておいてください。

市販の介護用スプーンについて

介護用の食器やスプーンは、普通に売っています。

  • 持ち手が太いスプーン
  • 角度のついたスプーン
  • 縁が立ち上がっている皿
  • 滑り止めのマット

私も、家族の方には「こういうものも売っていますよ」とお伝えしていました。

ただ、順番としては、

  • まず、今ある道具にタオルを巻いて試す
  • それで足りなければ、買う

これでいいと思います。合うかどうかは人によって違うので、先に試してから買うほうが無駄がありません。

自分で食べる人と、介助が要る人では、渡すものが違います

病院では、その人に合わせて渡す道具を変えていました。 どう変えていたかを書きます。

自分で食べられる人には、普通のカトラリーです

まず、ここを先に言っておきます。

自分で食べられる方には、世間一般のカトラリーセットを使っていました。 特別なものではありません。普通のスプーン、普通のフォーク、普通の箸です。

介護食と聞くと専用の道具が要ると思われがちですが、病院でもそうしていません。 持てているなら、それでいいのです。

むせる人には、あえて小さいスプーンを渡していました

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。

一口が大きくてむせてしまう方には、わざと小さいスプーンを渡していました。

スプーンが小さければ、一度にすくえる量が減ります。本人が気をつけなくても、自然に一口が小さくなります。

食事に時間がかかるようになったときとどう本人に伝えるかで、一口量が多いことが食べにくさにつながると書きました。でも、「もっと少しずつ食べて」と言葉で言うのは難しい。言われたほうも、嫌なものです。

道具を変えれば、言わなくて済みます。

小さいスプーンに替えるだけ。それで一口量が決まります。家にあるティースプーンでも構いません。買わなくてもできます。

皿は、病院では全員同じでした

正直に書いておきます。

皿は病院の備品なので、全員同じものを使っていました。 一人ひとり変えてはいません。

これは、家で用意する方にとって大事なことだと思います。病院でさえ、皿は変えていません。 介護用の食器を一式そろえないと食事ができない、ということはありません。

変えるなら、まずスプーンからです。

介助するときに見ているところ

介助で食べてもらう場合、本人が道具を持つ必要はありません。見るところが変わります。

介助のときも、スプーンの大きさがそのまま一口量になります。

大きいスプーンで介助すると、一口が多くなります。本人は口に入ってきたものを断れません。食事に時間がかかるようになったときで書いたとおり、一口量が多すぎることは、それだけで食べにくさになります。

介助する側が大きいスプーンを使っているなら、小さいものに替えてみてください。

自分で食べたい方のために

「舌でつぶせる」と「歯ぐきでつぶせる」で、やわらかすぎる筑前煮は箸ではすくえず、スプーンが必須だったことを書きました。

やわらかければいい、という話ではありません。 本人が使える道具で、本人がすくえる状態かどうか。そこを一緒に見てください。

道具で解決しないとき

道具を変えても食べにくさが続くなら、そこは道具の問題ではありません。

むせが続く、熱が出る、食事中に声が変わる。 こういうことがあれば、道具の話ではありません。様子を見ずに、かかりつけ医や訪問看護に連絡してください。

まとめ

  • 食べ物を変える前に、道具を見る
  • 買う前に、今あるスプーンの柄にタオルを巻いて試す
  • 入院中なら、看護師に聞く。 毎日見ているので答えられます
  • 市販の介護用スプーンは、試してから買う
  • 自分で食べられるなら、普通のカトラリーでいい。 病院でもそうしています
  • むせるなら、小さいスプーンに替える。 言葉で「少しずつ」と言わなくて済みます
  • 皿は病院でも全員同じ。 食器を一式そろえる必要はありません
  • 介助するときも、スプーンの大きさ=一口量
  • 道具で解決しないなら、それは道具の問題ではない

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この記事を書いた人

調理師の資格が取れる高校を卒業後、看護師として病院に勤務。集中治療室(ICU)を経て、再び食の世界へ。医療と調理の両方の現場から、家庭でできる療養食のことを書いています。

看護師/調理師/食育インストラクター/野菜ソムリエ

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