親が入院した。食事は病院がやってくれている。
だから、家族にできることはない。
そう思われがちですが、入院中こそ、できることがあります。
そして、入院中にしかできないこともあります。
病院には、その人の食事についての情報が、いちばん揃っているからです。毎食の様子を見ている人がいて、専門職がいて、記録があります。退院してしまうと、それが手に入らなくなります。
この記事は、入院中の面会で、何を聞き、何をしておくかの話です。
退院直後のことは別の記事にまとめています。こちらは、その前の段階です。
まず、遠慮しないでください
先に書いておきます。
食事のことを病棟に聞くのは、迷惑ではありません。
看護師は毎食の様子を見ています。聞かれれば答えられます。 そして、家族が食事を気にしていると分かれば、こちらも伝えやすくなります。
「忙しそうだから」と遠慮して、退院の日に何も分からないまま帰るのが、いちばん困ります。
聞くタイミング
食事の時間の前後は、病棟がいちばん忙しい時間です。
聞きたいことがあるなら、
- 面会の時間帯に、担当の看護師に声をかける
- あるいは、「今度、食事のことで少し聞きたい」と予告しておく
そうすれば、時間を取ってもらえます。
聞いておくこと
1. 食事の形態の名前
「常食」「一口大」「きざみ食」「ミキサー食」「とろみ付き」 など、病院ごとに呼び方があります。
正確にメモしてください。 市販品や宅配を選ぶときの手がかりになります(市販品の選び方の記事)。
2. とろみの濃さと、使っている商品名
とろみをつけているなら、濃さの段階と商品名を聞いてください。
商品によって粉の量の目安が違うので、同じ商品を使えば、同じ濃さを再現しやすくなります。
3. どのくらい食べているか
病院では、毎食どのくらい食べたかを記録しています。
「主食◯割、副食◯割」といった形です。平均してどのくらいかを聞いておくと、退院後に比べられます。
4. むせているか
これがいちばん大事かもしれません。
- むせることがあるか
- 何でむせるか(水分か、固形か、特定のものか)
- どのくらいの頻度か
最初に見るべき3つのことで書いたとおり、水は飲めても固形でむせることがあります。逆もあります。何でむせるかまで聞いてください。
5. 姿勢の指示
ベッドの角度、食後どのくらい起きているか。指示があるなら、それも聞いてください(食事の姿勢の記事)。
6. 専門職が関わっているか
言語聴覚士が飲み込みの評価をしていることがあります。
関わっているなら、何を言われているかを聞いてください。退院後に相談するときの手がかりになります。
伝えておくこと
聞くだけでなく、こちらから伝えることもあります。
本人の食の好み
病棟では、本人の好みを聞いていました。 そして医師や栄養士と相談して、できるだけ近いものを出せるように手配することがあります。
本人が言えない状態なら、家族が伝えてください。
- 好きだったもの、嫌いなもの
- 昔からの食習慣(朝はパンだった、麺類が好きだった、など)
- 食べられないもの
知らせなければ、分かりません。 そして知らせれば、できる範囲で対応されることがあります。
家での食べ方
- 入院前は、どのくらい食べていたか
- 家ではどんな形態だったか
- むせることはあったか
これは、病院側が知りたい情報です。入院前の状態が分かると、どこまで戻せそうかの見当がつきます。
退院後の環境
誰が作るのか。作れる人がいるのか。
これを早めに伝えておくと、退院までに相談が進みます。 栄養指導が必要と判断されれば、医師から指示が出ることがあります。
退院の直前に言うより、早いほうがいいです。
できれば、食事の場面に立ち会ってください
これが、入院中にしかできないことです。
退院後1週間の記事でも書きましたが、もう一度書きます。
一度、食事介助をしてみてください
私がいた病棟でも、ご家族に食事介助をお願いすることがありました。
そのとき、食事形態やとろみの具合を、実物で見てもらえていました。
言葉で「一口大」「中間のとろみ」と言われても、実際の大きさや濃さは伝わりません。 一度自分の手でスプーンを持つと、それが分かります。
見てほしいのは、この4つ
介助させてもらえるなら、ここを見てください。
- 一口の大きさ(どのくらいの塊なら食べられるか)
- とろみの濃さ(実物を見る)
- スプーンひとさじの量(多すぎると口に残ります)
- 一口ごとに飲み込めているか(口の中が空になってから次を入れる)
言葉では伝えにくい部分です。 家で再現するときの基準になります。
介助まではできなくても
食事の場面を一度見せてもらうだけでも違います。
あるいは、写真を1枚撮らせてもらう。 これも基準になります(撮影の可否は病棟に確認してください)。
家族が介助すると、食べることがあります
退院後1週間の記事にも書きましたが、看護師が介助するとあまり食べないのに、ご家族が介助すると食べるという方がいました。
珍しいことではありません。同じ食事、同じ形態でも、誰がそばにいるかで変わることがあります。
面会のタイミングを、食事の時間に合わせてみてください。
差し入れをするとき
必ず、先に確認してください。
理由があります。
- 食事の制限が出ていることがあります(塩分、水分、糖分など)
- 飲み込みの状態に合わないものは、危険です
- 絶食の指示が出ていることがあります
- 検査の前で、食べてはいけない時間帯があります
よかれと思った差し入れが、危ないことがあります。
とくに、間食とおやつの記事に書いたもの ── 餅、団子、ナッツ、飴、せんべい ── は、飲み込む力が落ちている方には危険です。
確認してから、持っていってください
「これを持ってきていいですか」と聞けば、すぐ答えてもらえます。
許可が出たら、好きだったものを持っていってあげてください。 病院食では出せないものが食べられるのは、家族だからできることです(食べられなくなったときの記事)。
家族が来ること自体に、意味があります
ここまで、聞くこと・伝えること・やってみることを書いてきました。
でも、いちばん大きいのは、来ること自体かもしれません。
病院は、休まらない場所です
入院中は、ゆっくり休めていると思われがちです。実際は、そうでもありません。
相部屋であれば、同じ部屋に知らない方がいます。 物音がする。話し声がする。夜も完全に静かにはなりません。
何かと気を遣います。 休まなければいけないのに、休めない。そういう環境です。
家族が来ると、みんな笑顔になります
そこにご家族が来ると、表情が変わります。
安心感が、まったく違うのだと思います。 これは、病棟にいて何度も見てきたことです。
無口だと思っていた方が、よく話されることがあります
印象に残っていることがあります。
普段はほとんど話さない方がいました。こちらが話しかけても、返事が短い。無口な方なのだろうと思っていました。
ところが、ご家族が来られたときは、まったく違いました。 よく話される。笑われる。
「この方は、こんなに話す人だったのか」と驚きました。
そこから、話し方が変わりました
それに気づいてから、こちらから家族の話題を振ってみるようになりました。
「息子さん、昨日来てはりましたね」「お孫さん、いくつになられたんですか」
すると、笑顔で話してくださる。
その人が話せる話題を知らなかっただけでした。
ご家庭でも、できることがあります
ここから、実際に役立つ話です。
何を話せばいいか分からない、と思って面会を短くする必要はありません。 いるだけで、意味があります。
そのうえで、ひとつお願いしたいことがあります。
本人のことを、病棟に伝えておいてください
食事の好みを伝えてください、と前に書きました。同じように、その人がどういう人かを伝えておいてください。
- 昔の仕事
- お孫さんの名前や年齢
- 好きだったこと(趣味、旅行、スポーツ、テレビ)
- 住んでいた土地の話
これが、ご家族がいない時間に効きます。
看護師も、話しかけるきっかけを探しています。手がかりがあれば、話題を振れます。 そして、本人が笑顔で話せる時間が増えます。
家族が来られるのは、一日のうちのわずかな時間です。 でも、家族のことを伝えておけば、いない時間にも家族の話題が出ます。
気持ちが動くことは、食べることにもつながります
食べられなくなったときの記事に書いたことですが、食べることは、栄養だけの話ではありません。
気持ちが動いているときと、そうでないときでは、食事への向き方も違うという印象があります。
だからこそ、面会を食事の時間に合わせることには、二重の意味があります。
- 食事の場面を見られる(形態、とろみ、介助の様子)
- そして、そばに家族がいる状態で食事ができる
退院後1週間の記事で書いた「家族が介助すると食べることがある」というのも、おそらくここにつながっています。
退院が近づいたら
退院後の1週間の記事に詳しく書いていますが、退院が決まってからでは遅いことがあります。
- 誰が作るかを決めておく
- 道具をそろえておく(ミキサー、とろみ剤)
- 市販品や宅配を、退院前に手配しておく
- 相談先を確認しておく(ケアマネジャー、訪問看護)
退院の日は、慌ただしく過ぎます。 その日に考え始めると間に合いません。
まとめ
聞くこと
- 食事の形態の名前/とろみの濃さと商品名/どのくらい食べているか
- むせているか、何でむせるか
- 姿勢の指示/専門職が関わっているか
伝えること
- 本人の食の好み、昔からの食習慣
- 入院前の食べ方
- 退院後、誰が作るのか
- その人がどういう人か(昔の仕事、孫の名前、好きだったこと)──家族がいない時間に効きます
やってみること
- 一度、食事介助をする(一口の大きさ・とろみ・ひとさじの量・飲み込みの確認)
- 難しければ、場面を見る/写真を撮る
- 面会を食事の時間に合わせる
差し入れ
- 必ず先に確認する。 制限や絶食の指示があることがあります
遠慮しないでください。 食事のことを聞くのは、迷惑ではありません。
そして、来ること自体に意味があります。 何を話せばいいか分からなくても、構いません。
次に読む記事
この記事を書いた人
調理師の資格が取れる高校を卒業後、看護師として病院に勤務。集中治療室(ICU)を経て、再び食の世界へ。医療と調理の両方の現場から、家庭でできる療養食のことを書いています。
看護師/調理師/食育インストラクター/野菜ソムリエ
