入院前は、普通に食べていたのに ── 入院で落ちるもの

入院する前は、家族と同じものを食べていた。

それが、退院したら食べられなくなっていた。

なぜこうなるのか。家族にとっては、いちばん納得がいかない部分だと思います。病気は治ったはずなのに。

この記事では、入院している間に何が起きているのかを書きます。

理由が分かると、どう構えればいいかが変わります。

動かない期間が、体を変えます

寝ている間に、力は落ちていきます

人の体は、使わなければ落ちていきます。

これは高齢の方ほど早く、そして数日でも起こります。

入院中は、

  • ベッドで過ごす時間が長い
  • 動く範囲が病室の中だけになる
  • 自分で何かをする機会が減る

治療のために必要な安静が、同時に、体を落としていきます。 ここが難しいところです。

落ちるのは、手足だけではありません

家族が気づきやすいのは、歩けなくなった、立てなくなったという変化です。

でも、同じことが、食べることにも起きています。

飲み込むという動作にも、筋肉を使っています。 使わない期間があれば、そこも落ちます。

「歩けなくなった」と同じことが、口とのどにも起きている。 ここを知っておいてください。

食べていなかった期間があります

絶食という時期

手術の前後、検査の前、状態が悪いとき。口から食べない期間があります。

その間、栄養は点滴などで補われます。

私がいた集中治療室(ICU)では、口から食事をとれない方が多くいました。 点滴で栄養を補いながら、回復を待つ。

食べないことでも、落ちます

食べるという動作も、使わなければ落ちていきます。

噛む、まとめる、飲み込む。毎日当たり前にやっていたことを、しばらくやっていない状態から再開するわけです。

だから、食べ始めは慎重に進めます。

いきなり元の食事に戻すのではなく、形態を下げたところから始めて、様子を見ながら上げていく。 これが病院での進め方です。

回復すると、戻っていきます

食べられなくなったときの記事にも書きましたが、ICUで見てきたことがあります。

点滴だけだった方が、少しずつ回復して、また口から食べられるようになる場面を、何度も見てきました。

そしてそのとき変わるのは、体の数値だけではありません。表情が明るくなり、話し方が変わり、リハビリにも前向きになる。 そういう方が、本当に多かった印象があります。

食べる力は、戻ることがあります。 これは、知っておいてほしいことです。

退院は、「元通り」ではありません

ここが、家族にとって最も大事な部分だと思います。

退院の基準

退院は、「入院前の状態に戻った」という意味ではありません。

病院での治療が一段落した、ということです。

  • 治療が終わった
  • 状態が安定した
  • 家庭で過ごせる見込みが立った

「元通りになったから退院」ではありません。

だから、退院後に困ります

家族は「治って帰ってきた」と思っています。本人も、そう思っていることがあります。

そこに落差が生まれます。

  • 入院前と同じ食事を出したら、食べられなかった
  • むせるようになっていた
  • 食べるのに時間がかかるようになっていた
  • 自分で食べられなくなっていた

これは、悪化したのではありません。 入院中に起きていたことが、家に帰って見えるようになった、ということです。

落ち込まないでください

「退院したのに、こんな状態で大丈夫なのか」と不安になります。

でも、退院後が、再開の始まりです。

病院は治療をする場所で、生活を取り戻すのはこれからです。家に帰ってからのほうが、戻りやすいこともあります。

落ちるのは、年齢のせいだけではありません

ここは、ぜひ知っておいてほしいところです。

20代の方でも、落ちます

入院して体力と筋力が落ちるのは、高齢の方だけではありません。

20代の若い方でも、「自分が思っていたより落ちている」と実感される方は、かなり多いという印象があります。

若くて、入院前は何ともなかった方が、ベッドから起き上がるだけで息が上がる。 そういうことが実際に起こります。

つまり、「年だから」ではありません

これは、家族にとって大事な意味があります。

若い方でも落ちるということは、落ちた理由は「年をとったから」ではないということです。

入院して、動かない期間があったから落ちた。 それだけのことです。

「もう年だから、こんなものだろう」

そう思って止まってしまうと、そこで終わります。 でも原因が年齢でないなら、やれることは残っています。

できていたことができないのは、誰でもつらい

年齢に関係なく、今までできていたことができないと、落ち込みます。

自分で起き上がれない。歩けない。箸が持てない。

食事に時間がかかるときの記事に書いたとおり、「自分で食べられない」という現実を知って、食べなくなる方がいます。

これは高齢だからではありません。誰にでも起こることです。

だから、「気持ちの問題」として片づけないでください。 落ち込むのが当たり前の状況にいる、というだけです。

そして、戻ることがあります

実際にあったこと

集中治療室(ICU)から一般病棟へ移ったあと、日々のリハビリを続けて、座ることも、食事も、介助なしで自分でできるところまで回復された方がいました。

入院したときの状態からは、想像できないくらいの変化です。

これは、若い方だけの話ではありません

高齢の方でも、実際にありました。

ここを強調しておきたいと思います。「年だから戻らない」ということはありません。

もちろん、全員がそうなるわけではありません。 時間がかかることもあれば、思うように戻らないこともあります。

それでも、「年だから無理」と決めてしまう理由にはなりません。

だから、諦める前提で始めないでください

家に帰ってきた親の状態を見て、「もう元には戻らないだろう」と思ってしまうことがあります。

そう決めてから始めると、そのとおりになりやすいです。

どれも、「戻るかもしれない」と思っているかどうかで、変わってきます。

家に帰ってから、どう構えるか

焦らないでください

「入院前に戻す」を目標にしないでください。

戻ることもあれば、時間がかかることもあります。今の状態から、少しずつです。

段階を飛ばさない

きざみ食の記事で書いたことの逆の話をします。

あの記事では「必要以上に形態を下げないでください」と書きました。同時に、いきなり上げるのも危険です。

  • 退院時の形態から始める
  • 様子を見ながら、少しずつ上げる
  • 上げるときは、必ず相談する

病院では、この上げ下げを専門職が判断しています。家庭には、その判断をする人がいません。

だから、自己判断で一気に上げないでください。 詳しくは形態は誰が決めるのかの記事に書きます。

動くことと、食べることはつながっています

体を起こす時間を増やすこと自体が、食べる力につながります。

食事の姿勢の記事で書いたとおり、体を支える力が戻れば、食べることに使える力が増えます。

  • 食事は、できるだけ食卓で
  • 日中は、起きている時間を作る
  • リハビリを受けているなら、続ける

食べることだけを工夫しても、限界があります。

一度に全部やらない

退院後1週間の記事に書いたとおりです。退院直後は、本人も家族も疲れています。

最初の1週間は、市販品や宅配を多めにして構いません。

相談してください

次のような場合は、家庭での工夫の範囲を超えています。

  • 入院前はなかったむせが、出るようになった
  • 食べる量が、退院後さらに減っている
  • 体重が減っている
  • 食後に熱が出ることがある

「退院したばかりだから、こんなものだろう」と様子を見ないでください。

退院後は、状態が変わりやすい時期です。かかりつけ医、訪問看護、ケアマネジャー。 どこでも構いません。

まとめ

  • 動かない期間が、体を落とします。 数日でも起こります
  • 落ちるのは手足だけではない。噛む力、飲み込む力にも同じことが起きています
  • 食べていなかった期間があると、食べる動作そのものも落ちます
  • 退院は「元通り」ではありません。 治療が一段落したということです
  • だから退院後に困るのは、当たり前です。 悪化したのではありません
  • 焦らない。 入院前に戻すことを目標にしない
  • 段階を飛ばさない。 上げるときは相談する
  • 体を起こす時間を増やすこと自体が、食べる力につながります
  • 落ちるのは年齢のせいだけではありません。 20代の方でも落ちます
  • だから「年だから」で止めないでください。 原因が年齢でないなら、やれることが残っています
  • できていたことができないのは、誰でもつらい。 気持ちの問題として片づけない
  • 食べる力は、戻ることがあります。 高齢の方でも、実際にありました
  • 全員がそうなるわけではありません。それでも、諦める前提で始めないでください

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この記事を書いた人

調理師の資格が取れる高校を卒業後、看護師として病院に勤務。集中治療室(ICU)を経て、再び食の世界へ。医療と調理の両方の現場から、家庭でできる療養食のことを書いています。

看護師/調理師/食育インストラクター/野菜ソムリエ

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