久しぶりに実家に帰って、親の食事を見て「あれ」と思ったことはありませんか。
前より箸が進んでいない。同じおかずばかり残している。食べ終わるまでが、やたらと長い。
そのとき多くの人が「年をとったから食が細くなったんだろう」と考えます。半分は正しいのですが、半分は違います。食べる量が減る背景にはいくつか違う理由があって、対応がそれぞれ別だからです。
この記事では、専門的な検査をする前に、家族が家で見られることを3つに絞ってお伝えします。特別な道具は要りません。次の食事を、少し注意して眺めるだけです。
1. 「何を」残しているか
全体の量ではなく、残しているものの種類を見てください。ここに一番情報があります。
肉や根菜が残っている
噛む力、または歯や入れ歯の問題が背景にあることが多いパターンです。本人は「あんまり好きじゃなくなった」と言うことがありますが、実際には噛むのがしんどくて避けている、ということが少なくありません。
ただし、もうひとつ疑ってほしいことがあります。硬さではなく、大きさの問題かもしれない、ということです。
和食の調理場にいた頃、下げられてきた器を見て気づいたことがあります。やわらかく煮た根菜でも、一口で収まる大きさでなければ、歯型だけついて残っていることがありました。
硬さの問題ではなく、大きさの問題だったのです。噛む力そのものより、「一口で処理しきれるかどうか」が先に来ていた。
ですから調理場では、お客様の年齢層に合わせて一口で収まる大きさに切り、隠し包丁を入れておく。それが日常でした。食べにくそうだから後から小さくするのではなく、はじめから口に入る形にしておく。 この違いは、家庭でも同じように効きます。
もし心当たりがあれば、まず切り方を変えてみてください。 刻むより先に試せて、失敗もありません。
汁物やお茶を飲むときにむせる
こちらは噛む力ではなく、飲み込みのタイミングの問題であることがあります。意外に思われるかもしれませんが、水やお茶のようにサラサラした液体は、とろみのあるものより難しい場合があります。
何を出しても全体的に少ない
食欲そのものが落ちている状態です。体調、薬の影響、気分の落ち込み、便秘など、食事以外に理由があることも多い領域です。
2. 「どう」食べているか
量よりも、食べ方の変化のほうが早くサインとして出ます。次の5つを見てください。
- 時間がかかるようになった — 以前より明らかに長い
- 口の中に溜めている — 飲み込まずに、しばらく含んだままになる
- 上を向いて飲み込む — 飲み込みにくさを、姿勢で補おうとしている
- 食後に声が変わる — 湿ったような、ガラガラした声になる
- 食事のあと疲れている — 食べること自体が労力になっている
このうち、家族が最も見落としやすいのが食後の声の変化です。食べ終わったあとに一言話しかけてみてください。声がいつもと違う湿ったような響きになっていたら、飲み込みがうまくいっていない可能性があります。
「水で大丈夫」は、「固形も大丈夫」ではありません
ここで、ひとつお伝えしておきたいことがあります。
集中治療室(ICU)には、人工呼吸器を使っている方が多くいます。回復して呼吸器を外せるようになり、食事を始められる段階まで来ても、飲み込む力が落ちていて、むせ込みが見られることは珍しくありませんでした。
食事を始める前には、飲み込みの検査をします。それでも印象に強く残っているのは、その検査をクリアしていても、固形物でむせる方が多かったことです。
水分と固形物は、口の中での扱いがまったく違います。片方で問題がなくても、もう片方で難しいということが起こります。だから病院でも、入院前にどんなものを食べていたかと、いまの状態の両方を見比べて、刻み食にするか一口大にするかを判断していました。
家庭でも同じです。「お茶でむせないから大丈夫」と考えないでください。 逆に「水でむせる」場合は、飲み込みの力が落ちているサインとして受け止めてください。
なお、飲み込みの検査は医療の場で行うものです。ご家庭で真似して確かめようとはせず、気になる様子があれば専門職に見てもらってください。
3. 食卓の外にあるサイン
食事の様子だけでなく、その周辺も見てください。
体重 — 数字が一番正直です。半年で数キロ減っているなら、それは「食が細くなった」では済まない変化です。可能なら、帰省のたびに測る習慣をつけてください。
水分をどれくらい摂っているか — 食事量より先に減るのが水分です。ペットボトルの減り方、湯呑みの残り方を見てください。
口の中 — 乾いていないか、入れ歯が合っているか、痛むところはないか。ここが原因のことは実はかなり多いのですが、本人は言い出さないことがあります。
薬 — 新しく増えた薬はないか。口の乾きや食欲に影響するものもあります。お薬手帳を見せてもらってください。
やらないほうがいいこと
良かれと思ってやったことが、逆効果になる場合があります。3つだけ挙げます。
いきなり細かく刻む
「食べにくそうだから」と刻む家庭は多いのですが、刻んだ食べ物は口の中でまとまりにくくなり、かえって飲み込みにくくなることがあります。 バラバラになったものを一つにまとめる作業が、口の中で必要になるからです。
刻む前に、まず一口で収まる大きさに切ることから試してください。それだけで解決することがあります。
無理に食べさせる
心配なあまり「もう少し食べて」と勧めたくなりますが、食事の時間が本人にとって苦しいものになると、さらに食が細くなります。
自己判断でとろみをつける
とろみは有効な手段ですが、濃さが適切でないと逆に飲み込みにくくなります。使うなら、どのくらいの濃さが合っているかを確認してからにしてください。
病院や専門職に相談したほうがいいとき
家で様子を見ていていい段階と、そうでない段階があります。次のいずれかがあれば、早めに相談してください。
- むせが続いている(特に食事のたび)
- 熱を繰り返している
- 体重が短期間で減っている
- 食後に強く疲れる、ぐったりする
相談先は、まずかかりつけ医です。歯や入れ歯が疑わしければ歯科、飲み込みが心配であれば、飲み込みのリハビリを行っている医療機関や、言語聴覚士のいる施設が力になります。
「たかが食事のことで受診するのは大げさでは」と思われるかもしれませんが、食べることは、体力にも、気持ちにも、生活そのものにも直結します。 早い段階で相談することに、大げさすぎるということはありません。
まとめ
親の食事量が減ってきたと感じたら、まずこの3つを見てください。
- 何を残しているか — 硬いものか、汁物か、全体的にか。そして「硬さ」だけでなく「大きさ」も疑う
- どう食べているか — 時間、口に溜める、姿勢、食後の声、疲れ方
- 食卓の外 — 体重、水分、口の中、薬
そして、いきなり刻まない。無理に食べさせない。自己判断でとろみをつけない。
原因が見えてくると、打つ手も変わります。まず試すべきは、刻むことではなく切り方を変えることです。 そこで足りなければ、次の手を考えていきましょう。
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この記事を書いた人
調理師の資格が取れる高校を卒業後、看護師として病院に勤務。集中治療室(ICU)を経て、再び食の世界へ。医療と調理の両方の現場から、家庭でできる療養食のことを書いています。
看護師/調理師/食育インストラクター/野菜ソムリエ
