退院の日は、慌ただしく過ぎます。
書類を受け取り、薬の説明を聞き、次の通院日を確認する。そして家に帰ってから、最初の食事の時間が来ます。
病院では毎食、その人に合った形で出てきていました。それが今日から、自分たちの手に移ります。
この記事では、最初の1週間で決めておきたいことを整理します。完璧にやる必要はありません。 ただ、最初にここを決めておくと、あとが楽になります。
退院する前に、聞いておけること
まだ入院中なら、聞いておいてほしいことがあります。退院してからでは聞きにくくなります。
食形態の名前を、正確にメモする
病院では食事の形態に名前がついています。「常食」「一口大」「きざみ食」「とろみ付き」など、病院によって呼び方が違います。
この名前を、正確に書き留めておいてください。 市販品や宅配を選ぶとき、この名前が手がかりになります。
聞く相手は、病棟の看護師が確実です。毎日その人の食事を見ています。
水分にとろみをつけていたか
つけていたなら、どのくらいの濃さかも聞いてください。「中間のとろみ」など、段階で言われることが多いです。
あわせて、使っていたとろみ剤の商品名も聞いておくと確実です。商品によって粉の量の目安が違うので、同じ商品なら同じ濃さを再現しやすくなります。
食べるときの姿勢
ベッドの角度、椅子に座るか、食後どのくらい起きているか。姿勢の指示があれば、それも書き留めてください。
できれば、一度食事介助をしてみてください
これが、いちばん確実な方法です。
入院中にご家族が食事の介助をする機会があるなら、ぜひ一度やってみてください。私がいた病棟でも、ご家族に介助をお願いすることがありました。そしてそのとき、食事形態やとろみの具合を、実物で見てもらえていました。
言葉で「一口大」「中間のとろみ」と言われても、実際の大きさや濃さは伝わりません。一度自分の手でスプーンを持つと、それが分かります。
介助まではできなくても、食事の場面を一度見せてもらう、あるいは写真を1枚撮らせてもらうだけでも違います。家で再現するときの基準になります。
スプーンひとさじの量も、見ておいてください
介助をさせてもらうとき、もうひとつ見てほしいのが一度にすくう量です。
多すぎると、飲み込みきれずに口の中に残ります。残ったまま次の一口を入れると、さらに溜まっていく。口の中に残ったものが気管に入ると、肺炎につながることがあります。
病棟では、この「ひとさじの量」も含めて介助していました。言葉では伝えにくい部分なので、実際に見るのがいちばんです。
家でも、一口ごとに飲み込めたかを確かめてから、次を入れてください。 口の中が空になっているかを見てから進める。それだけで違います。
1週間で決める5つのこと
1. 誰が作るか
これを最初に決めてください。曖昧なまま始めると、結局ひとりに集中します。
- 平日の昼はどうするか
- 仕事の日はどうするか
- 作る人が体調を崩したらどうするか
「いつもの人が無理な日」の代わりを、最初に用意しておいてください。 これがないと、続きません。
2. 何を使うか
全部を手作りする前提にしないでください。
- 家で作るもの
- 市販の介護食を使うもの
- 宅配を使うもの
最初の1週間は、市販品や宅配を多めにしても構いません。 退院直後は本人も家族も疲れています。ここで無理をすると、2週目にもちません。
3. 道具をそろえる
必要になりそうなものを、退院前か退院直後に用意します。
- ミキサーやフードプロセッサー(形態によっては必須)
- とろみ剤(使う指示があれば。病院と同じ商品から)
- 小さめの器(大きい器に少量だと、食べる気が失せます)
- 滑り止めマット(本人が自分で食べる場合)
全部そろえる必要はありません。 指示された形態に必要なものだけで十分です。
4. 食事の形態をどう再現するか
病院で言われた形態を、家庭でどう作るか。ここが最も悩むところです。
考え方は3つあります。
- 家で作って再現する(調理の工夫で対応)
- 市販品で代替する(UDF区分を目安に選ぶ)
- 宅配に任せる(形態が決まっているなら最も確実)
最初は「宅配や市販品で確実に」から始めて、慣れてきたら家で作る範囲を増やす。 この順番が、いちばん失敗が少ないです。
5. 誰に相談するか
困ったときの相談先を、先に決めておいてください。 困ってから探すと、間に合いません。
- かかりつけ医
- ケアマネジャー(介護保険を使っている場合)
- 訪問看護(利用しているなら)
- 退院した病院の相談窓口
「こんなことで連絡していいのか」と迷う必要はありません。 食べられているかどうかは、退院後に最も見られている項目のひとつです。
なお、家庭での食事に不安が大きい場合、栄養指導が受けられることもあります。 必要と判断されれば医師から指示が出るので、退院前に相談してみてください。
病院食と家庭の食事は、違って当たり前です
ここは、心を軽くしてほしい部分です。
病院の食事は、栄養士が計算し、調理のプロが作り、形態も管理されています。それと同じものを家庭で再現するのは、そもそも無理です。
再現しようとして疲れ果てるより、「今日は食べられた」を積み重ねるほうが、結果的に続きます。
家族だから食べる、ということがあります
そしてもうひとつ、お伝えしておきたいことがあります。
病棟にいた頃、看護師が介助するとあまり食べないのに、ご家族が介助すると食べる、という方がいました。珍しいことではありません。
同じ食事、同じ形態でも、誰がそばにいるかで変わることがあります。
病院と同じものを作れなくても、家族が作って、家族と食べるということ自体に意味がある。完璧な一食より、続く百食です。
最初の1週間で見ておくこと
食事の内容より、本人の様子を見てください。
- むせていないか
- 食べるのにかかる時間
- 食後に疲れていないか
- 体重(週に1回でも測れると理想的です)
- 排便
- 水分をどれくらい摂れているか
このあたりに変化があれば、早めに相談してください。特にむせが続く場合と、熱が出た場合は、様子を見ずに連絡を。
1週間経ったら、見直してください
最初に決めたことを、1週間後にもう一度見ます。
- 無理が出ているのは誰か
- 本人が残しているのは何か
- 形態は合っているか(きつすぎても、緩すぎても合いません)
- 続けられそうか
最初に決めたことを変えるのは、失敗ではありません。 退院直後の状態は変わっていきます。合わせ直すのが正解です。
まとめ
退院前に聞いておく
食形態の名前/とろみの濃さと商品名/姿勢の指示/できれば一度、食事介助をしてみる(ひとさじの量も見ておく)
1週間で決める
- 誰が作るか(代わりの人も)
- 何を使うか(手作り/市販/宅配の割合)
- 道具
- 形態の再現方法
- 相談先
見ておく
むせ、食事時間、疲れ、体重、水分
そして、病院と同じにしようとしないこと。 完璧な一食より、続く百食です。
次に読む記事
この記事を書いた人
調理師の資格が取れる高校を卒業後、看護師として病院に勤務。集中治療室(ICU)を経て、再び食の世界へ。医療と調理の両方の現場から、家庭でできる療養食のことを書いています。
看護師/調理師/食育インストラクター/野菜ソムリエ
