以前は20分で終わっていた食事が、40分かかるようになった。
量が減ったわけではないのに、時間だけが延びていく。そして食べ終わる頃には、本人も家族も疲れている。
この記事では、食事に時間がかかるようになったときに何が起きているか、そしてどう向き合うかを整理します。
時間がかかること自体は、悪いことではありません
先にお伝えしておきます。
ゆっくり食べることは、それ自体は問題ではありません。 むしろ急いで食べるほうが危ない場面もあります。
問題になるのは、次のような場合です。
- 食べ終わる前に疲れてしまい、途中でやめてしまう
- 時間がかかった結果、食事が冷めてしまう
- 家族が付き添いきれず、急かしてしまう
- 口の中に溜めたままになっている
つまり、時間そのものより、その結果として起きていることを見てください。
なぜ時間がかかるのか
いくつかの理由が考えられます。
噛む回数が増えている
歯や入れ歯の不具合、あごの力の低下。同じものを飲み込める状態にするまでに、回数が必要になっている状態です。
→ 対応:切り方を変える、やわらかくする
口の中でまとまらない
噛めてはいるが、ひとつにまとめるのに時間がかかる。刻み食で起きやすいパターンです。
→ 対応:あんをかける、一口大に戻す
飲み込むまでに間がある
口に入れてから、飲み込むまでの時間が延びている。口の中に溜めているように見えるのは、この状態のことがあります。
→ 対応:ひと口の量を減らす、専門職に相談する
疲れている
食べること自体が体力を使います。食事の後半になるほど、動きが遅くなることがあります。
→ 対応:回数を分ける(後述)
手の力が落ちている
箸やスプーンを持つ力、口まで運ぶ力が落ちている。口の中の問題ではなく、そこにたどり着くまでの問題です。見落とされやすい原因です。
→ 対応:道具を変える(後述)
現場で見ていたのは、この2つでした
病棟で「食事に時間がかかる」方を見ていて、噛む力や飲み込む力とは別の理由が2つありました。どちらも家庭で起こります。
1. 午前のリハビリで、すでに疲れている
入院中、リハビリは午前に入ることが多くありました。そして終わってしばらくすると、昼食の時間が来ます。
そのとき本人は、もう体力を使い切っています。
食べることも、体力を使う仕事です。疲れ切った状態で食卓についても、途中で手が止まります。
これは、家庭でも同じことが起きます。
- デイサービスから帰ってきた日の夕食
- 入浴のあとの食事
- 通院で半日出かけた日
その日の予定を見てください。 疲れる予定のあとの食事は、時間がかかって当たり前です。
対応は難しくありません。
- 食事の時間を、少し後ろにずらす(先に休んでもらう)
- その一食は軽くして、落ち着いてから間食で補う
- 疲れる予定は、食事の直前に入れない
「今日はよく食べなかった」ではなく、「今日は疲れる日だった」と見てください。
2. 「自分で食べられない」ことに気づいて、食べなくなる
こちらのほうが、根が深い問題です。
入院すると、筋力が落ちます。 数日寝ているだけでも落ちます。そして退院した頃には、箸が持てない、スプーンが重く感じる、口まで運ぶ途中で落としてしまう、ということが起こります。
このとき起きているのは、噛む力の問題でも、飲み込む力の問題でもありません。手の問題です。
でも本人にとっては、そういう分け方ではありません。
「自分で食べられなくなった」
その事実を目の前に突きつけられて、嫌になってしまう。食べる気そのものがなくなる。そういう方を、何人も見てきました。
これは食欲の問題に見えて、実はそうではありません。
##### だから、見るところが変わります
時間がかかっているのが「噛めないから」なのか「手が動かないから」なのか。 まずここを見分けてください。
手の問題なら、料理をやわらかくしても解決しません。変えるのは道具と環境です。
- 太い柄のスプーン、軽いスプーン(介護用品として売られています)
- 滑り止めマット(器が動かないだけで、すくいやすくなります)
- 縁が立った皿(すくうときに、そこで受けられます)
- 持ち手のあるコップ、両手で持てるもの
##### 全部を介助しないでください
いちばん大事なのは、ここかもしれません。
自分で食べられないなら介助すればいい、と考えたくなります。でも、それを本人が望んでいないことがあります。
- 持てるところは持ってもらう
- 最初の数口だけ自分で、疲れたら介助に切り替える
- 手で持てるものを混ぜる(おにぎり、サンドイッチ。ただし飲み込みの状態が許す範囲で)
そして、こぼしても何も言わないでください。
こぼすことを本人がいちばん気にしています。「またこぼした」と言われるくらいなら食べない、となります。
こぼれる前提にしておく。 エプロンをつける、下に新聞紙やマットを敷く。片付けの準備を先にしておけば、家族の側も言わずにすみます。
食事に時間がかかることより、自分で食べることをやめてしまうことのほうが、あとに響きます。
「1回で全部」をやめる
もっとも現実的な対応がこれです。
1食で全部食べきることを目標にしないでください。
- 主食と主菜だけ先に食べてもらい、残りは間食の時間に回す
- 1日3食を、4回・5回に分ける
- 疲れる前に切り上げ、時間をおいてまた出す
病院でも、食事だけでは足りない方には間食を追加していました。回数を増やして1回の負担を減らすという考え方です。
家庭でも同じことができます。「完食」より「1日でどれだけ食べられたか」で見てください。
冷めてしまう問題
時間がかかると、必ずこれが起きます。そして冷めた料理は、味も感じにくくなります。
対策はいくつかあります。
- 少量ずつ出す(大皿で出さず、食べる分だけ温め直す)
- 保温の器を使う(陶器の厚いもの、保温性のある食器)
- あんをかける(表面が覆われるので冷めにくくなります)
- 後半の分は温め直す
最後のやり方が現実的です。半分食べたところで一度下げて、温め直して出す。手間はかかりますが、食べる量が変わります。
急かさないでください
これがいちばん大事かもしれません。
家族が横で待っていると、本人は急かされていると感じます。 急いで食べると、むせやすくなります。
- 一緒に食卓につき、自分も食べる
- 時計を見ない、見せない
- 「まだ食べられる?」と何度も聞かない
時間がかかることを、前提として受け入れてしまうほうが、結果的にうまくいきます。
家族の側にも予定があります。だからこそ、「この食事には40分かかるもの」と最初から決めておく。そのほうが、お互いに楽です。
相談したほうがいいとき
次のような場合は、家庭での工夫だけで進めず、一度相談してください。
- 時間がかかったうえに、食べる量も減っている
- 食後にぐったりしている
- むせを伴うようになった
- 体重が減ってきた
「ゆっくりでも食べられているから大丈夫」と様子を見ているうちに、必要な量が入っていないということが起こります。
まとめ
- 時間がかかること自体は問題ではない。 その結果を見る
- 原因は、噛む回数/まとまらない/飲み込むまでの間/疲れ/手の力
- その日の予定を見る。 リハビリや入浴のあとは、疲れていて当たり前
- 「噛めない」のか「手が動かない」のかを見分ける。 手なら、変えるのは道具
- 全部を介助しない。 持てるところは持ってもらう。こぼしても何も言わない
- 1回で全部食べきることを目標にしない。 回数を分ける
- 冷める問題は、少量ずつ・温め直し・あんで対応
- 急かさない。 時間がかかる前提で予定を組む
- 量も減っているなら、早めに相談を
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この記事を書いた人
調理師の資格が取れる高校を卒業後、看護師として病院に勤務。集中治療室(ICU)を経て、再び食の世界へ。医療と調理の両方の現場から、家庭でできる療養食のことを書いています。
看護師/調理師/食育インストラクター/野菜ソムリエ
