家族が集中治療室(ICU)に入っているとき、聞きたくなることがあります。
「いつから、ごはんを食べられるようになりますか」
食べられないあいだは、点滴や管で栄養が入っています。それは分かっている。でも、口から食べられるようになったら、ひとつ山を越えたという気がする。だから聞きたくなります。
私はICUで働いていました。その質問を、何度も受けました。
入院で落ちるものでは、入院で何が落ちるかを書きました。この記事はその裏側です。落ちたものが、どう戻っていくか。
まず、ここは正直に書いておきます
いつ食べられるようになるかは、人によって違います。 何日で、とは言えません。
病気の種類、体の状態、年齢、その日の調子。全部が関わります。だから、この記事に「◯日で食べられます」とは書けません。
書けるのは、どういう順番で戻っていくかと、家族が何を見ていればいいかです。
戻っていく順番
病院で見てきた流れを、順番に書きます。ここに書くのは一般的な流れです。 実際にどう進むかは人によって違うので、担当の医師や看護師に確認してください。
1. まず、生命の危機を抜ける
食事の話は、そのあとです。命を支えることが最優先の時期があります。この段階では、口から食べることは考えません。
2. 点滴で、ビタミンと電解質を補う
体の水分や、体を動かすのに必要な成分を点滴で入れます。まだ「栄養」というより、体の状態を整える段階です。
3. 点滴でエネルギーを入れながら、鼻からの栄養を始める
点滴で糖分などのエネルギーを補いながら、鼻から管を入れて、胃に直接栄養を送る方法を始めることがあります。経管栄養と呼ばれるものです。
ここで誤解しやすいのですが、これはまだ「口から食べる」ではありません。 家族から見ると管が増えて不安になりますが、栄養を入れられる状態まで戻ってきた、ということです。
4. 人工呼吸器が外れたら、水分から
呼吸の管が外れると、ようやく口からのものが始まります。 最初は水分からです。
ここが、家族が待っていた段階です。
5. 食べるものが決まる ── ここで年齢が関わります
口から食べ始めるとき、どこから始めるかは人によって違います。
- 若い方は、普通食か、おかゆなどのやわらかいものから始まることが多い
- 高齢の方は、ペースト食やゼリーなど、もっと下の段階から始めることが多い
高齢の方のほうが慎重に下から始めるのは、飲み込む力が落ちている可能性を考えてのことです。食事の形態は誰が決めるのかで書いたとおり、ここは医師と看護師が判断します。
「出発点」と「どこまで戻るか」は別の話です
ここを混ぜないでください。
出発点は、年齢で差がつきます。高齢の方は下の段階から始まります。それは慎重さであって、見込みの話ではありません。
どこまで戻るかは、年齢では決まりません。
私は、高齢の方がICUから病棟に上がったあと、リハビリを続けて、座ることも食事も介助なしでできるまで回復したのを見てきました。逆に、20代の方でも、自分が思っているより体力と筋力が落ちて驚かれることがあります。
最初がゼリーからだったからといって、ずっとゼリーということではありません。出発点が下なだけです。
誰が、何を見て判断しているのか
食事を次の段階に進めることを、現場では「食上げ」と呼びます。
食事の形態は誰が決めるのかで書いたとおり、毎日その人の食事を見ているのは看護師です。 看護記録に、毎食の様子を書いています。食べた量、むせの有無、食べるのにかかった時間。
その記録をもとに、看護師から医師に相談します。「そろそろ上げられそうです」「まだ早いと思います」。 最終的に決めるのは医師ですが、材料を出しているのは現場です。
だから、家族が見たことも材料になります。 面会のときに気づいたことがあれば、伝えてください。
いきなり食べさせるわけではありません
人工呼吸器が外れても、すぐに食事が出てくるわけではありません。
家族から見ると「もう呼吸はできているのに、なぜ食べさせてくれないのか」と思う時期があります。ここで何をしているかを書いておきます。
1. 唾液を飲み込めるかを確かめる
まず、自分の唾液をちゃんと飲み込めるかを見ます。
何も口に入れない状態での確認です。いちばん安全な方法から始めます。
2. それができたら、ごく少量の水で確かめる
唾液が問題なければ、ごく少量の水で確かめます。むせ込まないか、飲み込んだあとに声が変わらないか。
ここまで確認して、はじめて食事の段階に進みます。
3. 次に、検査用のゼリーで確かめる
水で問題がなければ、検査用のゼリーを食べてもらいます。
液体と、形のあるものでは、飲み込み方が違います。「舌でつぶせる」と「歯ぐきでつぶせる」で書いたとおり、やわらかさと飲み込みやすさは別のものです。水が飲めたから食べられる、とはなりません。
そこらのプリンやゼリーで試すのではなく、確認のための専用のものを使います。
そして、食事の形態が決まる
ここまでの結果を見て、その人に合った形態を決めてから、食事が始まります。
食事の形態は誰が決めるのかで書いた「形態は決まっている」というのは、こういう確認を経たうえでの話です。なんとなく決まっているわけではありません。
これは、家でやらないでください
ここははっきり書きます。
この確認は、病院の中で、すぐ対応できる人がそばにいる状態でやっています。
むせたときにどう対応するか、何かあったときに誰を呼ぶか。その体制があるから、水を口に入れられます。同じことを家でやらないでください。
家で食べられるかどうかを確かめたくなったときは、むせたとき、どうするかと食事の形態は誰が決めるのかを読んでください。判断は専門職に預けてください。
ICUでの食事は、それ自体がリハビリです
ICUでは、ベッドの上で食べることが多いです。
食事の姿勢と環境で書いたとおり、このときの姿勢はとても大事です。自分の体を支える力が落ちている状態で、体を支えながら食べるのは、それだけでかなりきついことです。
だから、食べることそのものが、もうリハビリになっています。「少ししか食べられなかった」ことは、失敗ではありません。
場所ではなく、その人の状態で決まります
ICUから一般病棟へ移ると、何かが変わると思われがちです。
実際は違います。ICUだから、病棟だから、で食事の見方が変わるわけではありません。 見ているのは、その人に介助が必要かどうかです。
大きく3つに分かれます。
見守り
自分で食べられる状態です。そばにいて様子を見ますが、手は出しません。
むせていないか、ちゃんと飲み込めているか、途中で疲れていないか。見ているだけに見えますが、見ているのが仕事です。
一部介助
途中から手を貸す状態です。
最初は自分で食べられるけれど、後半で力が落ちる。すくいにくいものだけ手伝う。こういう場合です。食事に時間がかかるようになったときで書いた「後半から落ちる」は、まさにここにあたります。
全介助
すべて介助する状態です。
この3つのどこにいるかは、日によって変わることもあります。 昨日は見守りでよかった人が、今日は一部介助が要ることもある。だから毎食見ています。
この3つの言葉は、家族にも役に立ちます
病院に「食事は自分でできていますか」と聞くと、「だいたいできています」という答えが返ってくることがあります。これでは、家に帰ってから困ります。
この3つの言葉で聞いてください。
「見守りですか、一部介助ですか、全介助ですか」
「一部介助なら、どこを手伝っていますか」
こう聞けば、具体的な答えが返ってきます。退院後、最初の1週間で「介助が要るかどうかを聞いてください」と書きましたが、この聞き方だと精度が上がります。
そして、食事の道具で書いたとおり、どの段階にいるかで、必要な道具も変わります。
家族ができること
面会のときに、食事の様子を聞く
入院中に家族ができることで書いたとおり、聞けば答えます。
「食事はどのくらい食べていますか」
「むせることはありますか」
「自分で食べていますか、介助していますか」
毎日見ている側が、いちばん細かく知っています。
本人に、今の位置を伝える
どう本人に伝えるかで書いたことと同じです。
今は回復の途中だと、言葉で伝えてください。 危なかった時期がどうだったか、今はどこまで戻ってきたか。本人は自分の状態が見えていないことがあります。
「前はこうだった、今はここまで来た」と言われるだけで、顔つきが変わる方がいます。
食べた量で、一喜一憂しすぎない
落ちるのは早く、戻るのはゆっくりです。1食だけを見て判断しないでください。
こういうときは、すぐ伝えてください
- むせが増えた
- 熱が出た
- 食事中に声が変わる、ゼロゼロする
- 食べない日が続いている
これは家族が判断することではありません。気づいたら、その場で看護師に伝えてください。 様子を見なくていいです。
まとめ
- いつ食べられるかは、人によって違う。 日数は言えません
- 戻る順番は、生命の危機を抜ける → 点滴 → 鼻からの栄養 → 人工呼吸器が外れて水分 → 口から食べる
- 判断しているのは毎日見ている看護師と医師。家族が気づいたことも材料になる
- 人工呼吸器が外れてもすぐには食べない。 唾液 → ごく少量の水 → 検査用のゼリー、と確かめてから形態を決めて食事が始まる
- その確認は家でやらないこと
- ICUでの食事は、それ自体がリハビリ。 少ししか食べられなくても失敗ではない
- 食事の見方は場所ではなく、その人の状態で決まる。見守り/一部介助/全介助
- 家族はこの3つの言葉で聞くと、答えの精度が上がる
- 出発点は年齢で差がつく。でも、どこまで戻るかは年齢では決まらない
- むせ・熱・声の変化・食べない日が続く → その場で伝える
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この記事を書いた人
調理師の資格が取れる高校を卒業後、看護師として病院に勤務。集中治療室(ICU)を経て、再び食の世界へ。医療と調理の両方の現場から、家庭でできる療養食のことを書いています。
看護師/調理師/食育インストラクター/野菜ソムリエ
