食事中に、親がむせた。
咳き込んで、苦しそうにしている。背中をさすったほうがいいのか。水を飲ませたほうがいいのか。
こういうとき、その場で何をするかより先に、見分けなければいけないことがあります。
この記事では、むせと、詰まりの違いを書きます。
先にお伝えしておきます
この記事では、のどに詰まったときの応急手当の方法は書きません。
理由があります。手当ての方法は、文章を読んで身につくものではないからです。 実際に手を動かして習う必要があります。
お住まいの地域の消防署で、救命講習を受けられます。 無料のものが多く、数時間で終わります。
ご家族に食べる力が落ちてきた方がいるなら、一度受けておいてください。 これがこの記事でいちばんお伝えしたいことです。
この記事が書けるのは、何が起きているかの見分け方と、やってはいけないことです。
むせと、詰まりは違います
この2つを分けてください。対応がまったく違います。
むせている(咳き込んでいる)
- 咳が出ている
- 声が出る
- 顔は赤くなることがある
- 苦しそうだが、息はしている
咳が出ているということは、空気の通り道が完全には塞がっていないということです。
咳は、入ってはいけないものを出そうとしている体の反応です。つまり、体が自分で対処しようとしています。
詰まっている(窒息)
- 咳が出ない、または弱々しい
- 声が出ない
- 息ができていない
- 顔色が青白い、または紫っぽくなる
- のどを手でつかむような仕草をする
- ぐったりする
こちらは、緊急事態です。
咳ができないということは、空気が通っていないということです。
すぐに119番してください。 そして、救命講習で習った手当てを行ってください。
迷った時間が、そのまま危険になります。 「様子を見る」場面ではありません。
むせているときに、やってはいけないこと
ここからは、咳が出ている場合の話です。
水を飲ませない
これがいちばん多い間違いです。
「むせたから水を飲ませよう」と思ってしまいますが、むせている最中に水を飲ませると、その水でさらにむせます。
最初に見るべき3つのことに書いたとおり、水は速く流れるので、飲み込むのが難しい液体です。 むせている最中は、いちばん入れてはいけないものです。
落ち着いてから、少しずつ。 それまでは待ってください。
背中を強く叩かない
咳が出ているなら、体が自分で出そうとしています。
強く叩くと、かえって奥に入ってしまうことがあります。
やるとしたら、軽くさする程度にして、咳が出るのを待ってください。
上を向かせない
あごが上がると、気管に入りやすくなります(食事の姿勢の記事)。
苦しそうだと上体を反らせたくなりますが、逆です。 少し前かがみで、あごを引いた姿勢のほうが出しやすくなります。
「大丈夫?」と何度も聞かない
答えようとして、息を吸ってしまいます。 かえってむせます。
咳が落ち着くまで、そばで待ってください。
食事を続けさせない
咳が落ち着いても、すぐに次の一口を入れないでください。
呼吸が整って、本人が「もう大丈夫」と言えるようになってからにしてください。
現場で見ていた原因は、だいたいこれでした
かきこむように食べている
病棟でむせている方を見ていて、原因として多かったのがこれです。
- 急いで口に入れる
- 飲み込む前に、次を入れる
- 一口が大きい
食べ物そのものより、食べ方が原因ということが、かなりあります。
これは、このサイトで何度も書いてきたことと同じです。
- ひとさじの量(退院後1週間の記事)
- 一口ごとに飲み込めたか確かめる(退院後1週間の記事)
- 急かさない(食事に時間がかかるときの記事)
形態を下げる前に、まず食べ方を見てください。
食事の前に、一言伝えていました
私がやっていたのは、これです。
食事をお出しする前に、「時間かかってもいいから、ゆっくり食べてね」と一言。
出す前、というのが大事です。 食べ始めてから言うと、注意されたように聞こえます。 先に言っておけば、お願いになります。
ただ、正直に書きます
だいたい、聞いてもらえません。
長年の食べ方は、一言では変わらないのだと思います。急いで食べる癖のある方は、やはり急いで食べられます。
本人にどう伝えるかの記事で「説明すると納得してもらえることが多い」と書きましたが、食べ方の癖については、話が別です。 納得と、習慣が変わることは、違います。
だから、見ていました
声をかけて終わりにはせず、見守っていました。
- ナースステーションから見える位置で食べてもらう
- むせるリスクが高い方は、ベッドサイドで付き添う
言葉で変えるのではなく、そばで見る。 これが、いちばん確実な方法でした。
ご家庭でも、これが最大の対策です
声をかけたら終わり、にしないでください。
食事の姿勢の記事に書いたとおり、一緒に食卓につく。 それが、いちばん効きます。
- 見ていれば、一口が大きいときに気づけます
- 飲み込む前に次を入れようとしたら、止められます
- むせたときに、すぐ対応できます
そして、家族が一緒に座っていること自体が、急いで食べる理由をひとつ減らします。 ひとりで食べていると、早く終わらせたくなります。
家族が、いちばんやりがちなこと
ここも書いておきます。病棟で何度も見た光景です。
ご家族が付き添っているとき、心配のあまり「大丈夫?」「大丈夫?」と何度も聞かれます。
すると、答えようとして息を吸ってしまい、咳が止まらなくなります。
気持ちは、よく分かります。目の前で苦しそうにしていたら、声をかけたくなります。
でも、むせている最中に質問しないでください。
声をかけるなら、返事が要らない言葉で
黙って見ているのがつらいなら、答えなくていい言葉にしてください。
- 「ゆっくりでいいよ」
- 「あわてんでいいからね」
- 「そのまま咳して」
返事を求めない。 これだけで違います。
そして、軽く背中をさすりながら、咳が落ち着くのを待ってください。
むせたあとに、見ておくこと
その場が落ち着いても、終わりではありません。
食べ物が気管に入ったあと、時間が経ってから体調に出ることがあります。
数時間〜数日、様子を見てください
- 熱が出ていないか
- 咳が続いていないか
- 呼吸が普段より速くないか、苦しそうでないか
- ぐったりしていないか
- 食欲が落ちていないか
むせたあとに熱が出た場合は、様子を見ずに連絡してください。 気管に入ったものが原因で、肺炎につながることがあります。
「むせただけだから」と考えないでください。高齢の方では、はっきりした症状が出ないまま進むことがあります。
一度むせただけなら、慌てなくて大丈夫です
ここも書いておきます。
元気な人でも、水を飲んでむせることはあります。 一回のむせで、すぐに形態を変える必要はありません。
形態は誰が決めるのかの記事に書いたとおり、判断は一回の場面ではなく、積み重ねから出てきます。
大事なのは、記録に残すことです。
- いつむせたか
- 何でむせたか(水分か、固形か、特定のものか)
- どのくらいの頻度か
これが3つ並んで、同じことを指しているなら、それは伝える価値のある情報です。
相談する目安
次のような場合は、家庭で工夫を続ける前に相談してください。
- 毎食のようにむせている
- 水分を飲むたびにむせる
- むせたあとに熱が出た
- 咳が続いている
- 体重が減ってきている
- 「むせるのが嫌だ」と本人が食事や水分を避けるようになった
最後のものは見落とされがちですが、水分の記事に書いたとおり、むせを避けて水分を控えていることがあります。
いちばん効くのは、むせる前の対策です
むせてから対応するより、むせにくくしておくほうが確実です。
このサイトに書いてきたことが、そのまま当てはまります。
- 姿勢を作る(食事の姿勢の記事)── あごを引く。体を支える仕事は周りが引き受ける
- 一口の量を減らす(退院後1週間の記事)── 飲み込めたか確かめてから次を入れる
- 急がせない(食事に時間がかかるときの記事)── 急いで食べるとむせやすくなります
- 口を湿らせてから始める(口を整える記事)
- 食べ物と水分を同時に口に入れない(ごはん・パン・麺の記事)── お茶漬け、麺と汁
どれも、今日からできることです。
まとめ
- 応急手当は、文章では身につきません。 消防署の救命講習を一度受けてください
- むせ(咳が出る)と、詰まり(咳が出ない・声が出ない)は違います
- 咳が出ないときは、すぐ119番。 迷わないでください
- むせているときに:水を飲ませない/強く叩かない/上を向かせない/何度も聞かない/続けさせない
- むせたあと、数日は熱と咳を見る。 熱が出たら様子を見ずに連絡を
- 一回のむせで慌てなくていい。 ただし記録は残す
- 原因の多くは「かきこむように食べている」こと。 形態を下げる前に食べ方を見る
- 食事を出す前に「ゆっくりでいいよ」と一言。 ただし、それだけでは変わりません
- 声をかけて終わりにせず、一緒に食卓について見ている。 これがいちばん確実です
- むせている最中に「大丈夫?」と聞かない。 返事が要らない言葉にする
- いちばん効くのは、むせる前の対策です
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この記事を書いた人
調理師の資格が取れる高校を卒業後、看護師として病院に勤務。集中治療室(ICU)を経て、再び食の世界へ。医療と調理の両方の現場から、家庭でできる療養食のことを書いています。
看護師/調理師/食育インストラクター/野菜ソムリエ
