退院して家に帰るのではなく、別の病院や施設へ移る。
このとき、食事のことがどう引き継がれるかを知っている家族は、ほとんどいません。
私は、送り出す側にも、受け入れる側にもいました。 その両方から書きます。
看護サマリーという書類があります
転院や施設入所のときには、看護サマリーという申し送りの書類が作られます。
退院後、最初の1週間でも少し触れましたが、ここに食事のことも書かれます。
ただ、ここで知っておいてほしいことがあります。
看護サマリーは、次の医療機関へ渡すための書類です。 家族のために作られたものではありません。だから、家族の手元に残るとは限りません。
私が書いていたのは、だいたいこのあたりです。
- 食事の形態
- 1日に何食食べていたか
- 間食をつけていたか
間食とおやつで書いたとおり、病院では間食も医師の判断で出していることがあります。それが続くのかどうかは、次の場所にとって必要な情報です。
逆に言えば、書類に載るのは、項目が決まっているものだけです。
書類に書ききれないこと
書類には、決まった項目しか書けません。
でも、毎日その人の食事を見ていると、書類に収まらないことをたくさん知っています。だから、口でも申し送ります。
ICUから病棟へ送るときに、私が口で伝えていたのはこういうことです。行き先が別の病院や施設でも、伝えたい中身は変わらないと思います。
1. いつ、どこまで確認が済んでいるか
いつ呼吸の管が外れて、飲み込みの確認がどこまで済んでいるか。
唾液を飲み込めるか、水は大丈夫か、ゼリーは食べられたか。ICUから病棟へ戻る順番で書いた確認を、どこまでクリアしているかを日付とともに伝えます。
2. 「今の形態」ではなく、「どう変わってきたか」
ここが書類といちばん違うところです。
書類に載るのは、今の形態です。でも申し送りでは、何から始まって、今どこまで来ているかを伝えます。
ゼリーから始まって、ペーストになって、今はきざみ。この経過が分かると、次の人が「上げられそうか」を判断できます。 食事の形態は誰が決めるのかで書いた食上げの判断は、経過を知らないとできません。
今の一点だけでは、動かせないのです。
3. むせ込みがあるか
安全に直結するので、必ず伝えます。
4. 食べ方の癖
ここが、書類にはまず載らないところです。
- 早食いである
- 一口量が多い。だからむせやすい
こういうことは、毎食見ていないと分かりません。 そして、知っていれば手の打ちようがあります。
一口量が多くてむせる方には、食事の道具で書いたとおり、小さいスプーンを渡すという手があります。 癖が分かっていれば、次の場所でも同じ手が打てます。
5. 過去に、むせたことが原因で肺炎を起こしたことがあるか
これは必ず伝えます。一度あった方は、次も注意して見る必要があるからです。
書類に載っていても見落とされることがあるので、口でも言います。
書類は「点」、申し送りは「線」
並べてみると、違いがはっきりします。
- 看護サマリー ── 今の形態、食事回数、間食の有無。今この時点の状態
- 口頭の申し送り ── どこから始まって、今どこで、何に気をつけるか。経過と注意点
家族が持っているのは、実はこの「線」のほうです。
毎日見ているわけではなくても、「前は食べられていた」「最近こうなった」という変化を知っています。親が食事を残すようになったらで書いたのは、まさにその変化の見方です。
それを伝えてください。 書類に書いていないことだからこそ、価値があります。
受け入れる側から見ると
私は、転院してこられた方を受け入れる側もやっていました。
そこで分かったことを、正直に書きます。
情報は、どこも足りていません
看護サマリーは、1枚にまとめて簡潔に書かなければなりません。
書式がそう決まっています。だから、書く側がどれだけ知っていても、載せられる量に限りがあります。
これは、どこかの病院が不親切だという話ではありません。どこもそうです。 私が書く側だったときもそうでした。1枚に収めるために、削るしかないのです。
だから受け入れる側は、書類だけでは足りない前提で動きます。
だから、聞きに行きます
足りないぶんは、人に聞きます。
施設から来られた場合は、付き添ってこられた介護職員さんに聞きます。到着してすぐは処置があるので、その処置を待ってもらっている間に、普段の様子、食事の形態、注意点を聞きに行きます。 一緒に来てくださっている方が、いちばん知っているからです。
病院から来られた場合は、ご家族に聞きます。
「面会に行かれていましたか」
「食事のとき、どんな感じでしたか」
面会で見ておられたなら、その方がいちばん具体的に答えられます。
つまり、家族は聞かれます
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。
家族の話は、「あったら助かる情報」ではありません。実際に当てにされています。
受け入れる側は、書類が足りないことを知っています。だから聞きます。そのとき答えられるかどうかで、移った先の最初の数日が変わります。
同じ名前でも、中身は違います
もうひとつ。
病院食は、なぜあの形なのかで書きましたが、病院によって味の濃さは違います。 転院してこられた方から「ここのごはんは食べられる」と言われたことがあります。前の病院では食べられていなかった、ということです。
同じ「きざみ食」でも、同じ「とろみ付き」でも、場所が変われば中身は変わります。 書類に書かれた形態の名前は、そのまま同じものを意味しません。
家族が、移る前にやっておくこと
聞かれたときに答えられるように、移る前にやっておけることがあります。
1. 移る前に、看護師に聞いておく
書類は家族に渡らないことがあります。だから、自分で聞いて、自分でメモしてください。
聞くことは、退院後、最初の1週間で書いたのと同じです。
「食事の形態は何ですか」
「とろみはつけていますか。どのくらいの濃さですか」
「1日3食ですか。間食はありますか」
「食事は自分で食べていますか。介助が要りますか」
「むせることはありますか」
その場でメモしてください。 移った後では、前の病院に聞き直すのは簡単ではありません。
2. できれば、写真を撮らせてもらう
言葉だけでは伝わらないものがあります。
実際に出ている食事の写真が1枚あると、次の場所で話が早いです。 「これくらいの形です」と見せられるからです。「舌でつぶせる」と「歯ぐきでつぶせる」で書いたとおり、言葉の区分と実物は、必ずしも一致しません。
撮っていいかどうかは病院によるので、聞いてみてください。
3. 移った先で、最初に伝える
移った先でも、同じことを伝えてください。書類は届いていますが、家族が口で言ったことのほうが、早く現場に届くことがあります。
特に伝えたいのは、
- むせやすいかどうか(安全に直結します)
- 介助が要るかどうか、どのくらい
- 食べる速さ(食事に時間がかかるようになったとき)
- 本人が嫌がること(一口量が多い、急かされる、など)
入院中に家族ができることでも書きましたが、家族が知っていることは、現場にとって情報です。 遠慮しなくていいところです。
移った先で、見ていてほしいこと
場所が変わると、食事も変わります。味も、形も、出てくる時間も。
移った直後は、食べる量を見ておいてください。
そのうえで、次のようなことがあれば、様子を見ずに移った先の看護師に伝えてください。
- 食べない日が続いている
- 熱が出た
- むせることが増えた
新しい場所だと、家族のほうが遠慮しがちです。でも、移ったばかりのときほど、向こうはその人のことを知りません。 気づいたことは早めに言ってください。
食べられなくなったときも読んでおいてください。
まとめ
- 転院・施設入所のときは看護サマリーが作られるが、家族には渡らないことがある
- だから、移る前に自分で聞いて、自分でメモする
- 食事の写真が1枚あると、次の場所で話が早い
- 移った先でも、むせ・介助・速さ・嫌がることを口で伝える
- 移った直後は食べる量を見ておく。 食べない日が続く・熱・むせの増加があれば、早めに伝える
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この記事を書いた人
調理師の資格が取れる高校を卒業後、看護師として病院に勤務。集中治療室(ICU)を経て、再び食の世界へ。医療と調理の両方の現場から、家庭でできる療養食のことを書いています。
看護師/調理師/食育インストラクター/野菜ソムリエ
