食べる前に、口を整える ── 口の乾きと食事

料理を工夫しても、姿勢を整えても、それでも食が進まない。

そういうとき、口の中を見たことがあるでしょうか。

食べることの工夫は、たいてい「何を出すか」から始まります。でも実際には、食べ物が口に入る前の段階で、すでに決まっていることがあります。

この記事は、食事の手前にある口の話です。地味ですが、効きます。

口が乾いていると、食べられません

唾液がしていること

唾液は、思っている以上に働いています。

  • 食べ物を湿らせて、まとまりを作る
  • 味を溶かして、味覚に届ける
  • 飲み込むときの、滑りをよくする

つまり、唾液が少ないと、この3つが全部うまくいきません。

噛んでもまとまらない。味がしない。飲み込みにくい。食が進まない理由として挙げられるものが、ひととおり揃ってしまいます。

乾きやすくなる理由

年齢を重ねると、唾液の量が変わることがあります。

ほかにも、いくつか関係することがあります。

  • 薬の影響(多くの薬に、口が渇くという作用があります)
  • 口を開けて呼吸している
  • 水分が足りていない
  • 話す機会が減っている

薬については、自己判断で減らしたり中止したりしないでください。 気になるなら、処方した医師か薬剤師に相談してください。「口が渇いて食べにくい」と伝えれば、検討してもらえることがあります。

食べる前に、口を湿らせてください

いちばん簡単で、すぐできることです。

食事の前に、水分をひと口。

たったこれだけですが、口の中が湿った状態で食べ始めるのと、乾いたまま始めるのとでは違います。

病棟でも、食事の前に口を湿らせてから始めていました。

ご家庭では、

  • 食前に、お茶や水をひと口
  • 汁物から食べ始める(1日の献立の記事で汁物を先に決める理由が、ここにもあります)
  • 乾きが強いなら、口を湿らせるスプレーやジェル(ドラッグストアや介護用品店にあります)

汁物から始めるのは、和食の食べ方としても自然です。 意識しなくても続けられます。

食べる前の、口の中の掃除

ここからが、看護の側から書きたいことです。

食事の「前」に口を清潔にする

歯磨きは食後にするもの、と思われています。もちろん食後も大事です。

でも、食事の前にも、口の中を整えておくことに意味があります。

理由は2つあります。

ひとつは、口の中に残っているものを減らすためです。 前の食事の残りが口の中にあると、それが食べ物と一緒に入っていきます。

もうひとつは、口の中を動かすことで、唾液が出やすくなるからです。 頬の内側や舌を、やわらかい道具でそっと動かす。それだけで、口が食事の準備に入ります。

病棟でも、食前の口腔ケアをしていました。 食後だけではありません。

やり方は、その人に合わせてください

ここは注意が必要です。

自分で歯を磨ける方と、介助が必要な方では、やることがまったく違います。

そして、飲み込む力が落ちている方の口腔ケアは、水を使うと、その水でむせることがあります。

ですから、この記事では具体的な手順は書きません。ここは、専門職に一度見てもらってください。

  • 歯科医師、歯科衛生士(訪問してもらえる場合があります)
  • 訪問看護
  • ケアマネジャーに相談すれば、つないでもらえます

一度やり方を教われば、あとは家族でも続けられます。 その最初の一回を、自己流で始めないでください。

口の中に、こういうことはありませんか

食事の話をする前に、確認してほしいことがあります。

  • 入れ歯が合っていない(痛い、外れる、噛むとずれる)
  • 口の中が痛そうにしている
  • 口の端が切れている
  • 舌の表面が白っぽい、乾いている
  • 食後に口の中に食べ物が残っている

これらがあると、どんな料理を出しても進みません。

そして、これは料理で解決する問題ではありません。歯科の領域です。

入れ歯は、特に見てください

体重が減ると、入れ歯が合わなくなります。 顎の形が変わるためです。

「食べないから痩せた」と思っていたら、「入れ歯が合わなくなって食べられない」だったということがあります。順番が逆になっているわけです。

入れ歯の調整は歯科でできます。訪問歯科という形もあります。

食事の形態を下げる前に、まず口の中を見てください。

病棟でやっていたこと ── そして、断られること

食前のケアをしたほうが、食べ方が違いました

数字で測っていたわけではないので、あくまで印象として書きます。

食前に口腔ケアをしてから食事にした方のほうが、口に入れてから飲み込むまでが早かったという感覚があります。

口の中が乾いたまま食べ始めると、まとめるところから始めなければいけません。 湿っていれば、そこが省ける。理屈としても、そうだろうと思います。

食事の前に、口を整えておく。 これだけのことですが、食べ始めの数口が変わります。

でも、かなり断られます

正直なところを書きます。

食前に口腔ケアをする習慣がある方は、圧倒的に少ないです。

歯磨きは食後にするもの、と長年やってこられた方にとって、「これから食べるのに、なぜ今?」というのは当然の反応です。

断られることは、本当によくありました。

ですから、ご家庭で始めるときも、すんなり受け入れてもらえると思わないでください。嫌がられるのが普通です。

「なぜ必要か」を説明すると、変わります

ここが、いちばんお伝えしたいことです。

高齢の方は、理由を説明すると納得してくださることが多いという実感があります。

  • 口の中が乾いていると、食べ物がまとまりにくいこと
  • 口の中が湿っていたほうが、飲み込みやすいこと
  • 前の食事の残りを、そのままにしないほうがいいこと

こうしたことを先に伝えてから始めると、受け入れてもらえる確率が変わります。

私は、何をするにも説明してからやっていました。口腔ケアに限りません。

これは、食事の話すべてに当てはまります

このサイトでこれまで書いてきたことの、ほとんどがそうです。

どれも、黙ってやられると、嫌なことです。

とろみを黙って入れられたら、「勝手に味を変えられた」と感じます。姿勢を黙って直されたら、「扱われている」と感じます。

説明するかしないかで、同じことが、まったく別のものになります。

説明は、丁寧すぎなくて構いません

長い説明は必要ありません。一言でいいです。

  • 「口が乾いてると食べにくいから、先に湿らせとこか」
  • 「飲み込みやすくなるように、少しとろみつけたよ」
  • 「むせんようにしたいから、ちょっと背中直させて」

「これからこうします」と先に言う。 それだけです。

そして、嫌だと言われたら、いったん引いてください。 押し切ると、次から警戒されます。

説明して、断られて、また別の日に。 その繰り返しでいいと思います。

食後のこと

食後にも、書いておきたいことがあります。

口の中に残っていないか、見てください

きざみ食の記事で書いたとおり、刻んだものは口の中に残りやすいです。

食べ終わったあと、口の中に食べ物が残ったままになっていることがあります。本人は気づいていないことが多いです。

残ったものが、あとから気管に入ってしまうことがあります。食後に口の中を確認して、残っていれば取り除いてください。

食後すぐに横にならない

食事の姿勢の記事で書いたことと同じです。食後はしばらく体を起こしたままに。

口の中を清潔に

食後の口腔ケアが必要な理由は、虫歯だけではありません。

口の中の細菌が、食べ物や唾液と一緒に気管へ入ると、肺炎につながることがあります。

これは、飲み込む力が落ちている方にとっては、大きな問題です。

食事の工夫と、口の中を清潔にすることは、セットです。 片方だけでは足りません。

相談したほうがいいとき

  • 口の中に、痛みがありそう
  • 入れ歯が合っていない
  • 口の乾きが強く、食事が進まない
  • 食後に、口の中に食べ物が残っている
  • 熱を繰り返している

いずれも、料理の工夫の範囲を超えています。

歯科(訪問歯科を含む)、かかりつけ医、訪問看護、ケアマネジャー。どこからでも構いません。

まとめ

  • 唾液は、まとめる・味を届ける・滑らせるの3つをしている。 乾くと全部うまくいかない
  • 食事の前に、口を湿らせる。 ひと口の水分、または汁物から
  • 口腔ケアは食後だけでなく、食前にも意味がある(残りを減らす/唾液が出やすくなる)
  • ただし、やり方は最初に専門職に見てもらう。 自己流で始めない
  • 入れ歯が合っているか、必ず見る。 体重が減ると合わなくなります
  • 食後、口の中に残っていないか確認する
  • 食事の工夫と、口の清潔はセット

そして、何をするにも、先に説明してください。

  • 食前のケアは、かなり断られます。 嫌がられるのが普通です
  • 理由を伝えると、受け入れてもらえることが多い
  • 一言でいい。「これからこうします」と先に言う
  • 断られたら、いったん引く。 また別の日に

食事の形態を下げる前に、まず口の中を見てください。

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この記事を書いた人

調理師の資格が取れる高校を卒業後、看護師として病院に勤務。集中治療室(ICU)を経て、再び食の世界へ。医療と調理の両方の現場から、家庭でできる療養食のことを書いています。

看護師/調理師/食育インストラクター/野菜ソムリエ

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