「今日は何を作ろう」
介護食を作り始めた家庭が、毎日ぶつかるのがこれです。
レシピは調べれば出てきます。でも、レシピが分かっても献立は組めません。 一品ずつは作れるのに、一食としてまとまらない。栄養が偏っている気がする。同じものばかりになる。
この記事は、レシピの話ではありません。組み立て方の話です。
一度この型を覚えてしまえば、毎日ゼロから考えなくてよくなります。
結論 ── 汁物から決めてください
いきなり答えを書きます。
献立は、汁物から決めます。
主菜から決める人がほとんどだと思います。でも、療養食では汁物を先に決めたほうが、うまく組めます。
理由は3つあります。
1. 汁物は、水分と栄養を同時に運べます
水分の記事で書いたとおり、汁物は水分補給の手段でもあります。 そして具を入れれば、それだけで野菜もたんぱく質も入ります。
具だくさんの汁物が一杯あるだけで、献立の半分が埋まります。
2. 汁物は、飲み込みを助けます
口の中でばらけるものも、汁と一緒ならまとまります。 とろみをつければなおさらです。
汁物が一品あるかどうかで、食事全体の食べやすさが変わります。
3. 汁物を薄くすると、献立全体の味が立ちます
減塩の記事で書いた話です。
薄い汁物は口をリセットします。 そのあとに口に運ぶ料理を、最大限に味わえる。
つまり、汁物を先に決めて薄く作ると、他の料理の味付けを変えずに、食卓全体が美味しくなります。
1食の型
汁物を決めたら、残りを埋めます。型はひとつだけ覚えてください。
主食 + 汁物 + 主菜 + 副菜(1〜2品)
和食の一汁二菜、一汁三菜と同じです。特別なことは何もしていません。
それぞれの役割
主食(ごはん・粥・パン・麺)
エネルギー。いちばん量が多い部分です。食べにくいときはごはん・パン・麺の記事を。
汁物
水分+具の栄養+飲み込みを助ける。味は薄く。
主菜(魚・肉・卵・豆腐)
たんぱく質。味を寄せるのは基本的にここです。
副菜(野菜・海藻・きのこ・芋)
ビタミン、ミネラル、食物繊維。作り置きが効く部分です。
全部そろわなくても構いません
型は目安です。毎食4品作れる家庭は多くありません。
そろわない日は、汁物に寄せてください。 具だくさんの味噌汁ひとつで、主菜と副菜の役割をかなり兼ねられます。豚汁、けんちん汁、粕汁。これらは一杯で献立になります。
味の配分 ── 濃いのは一品だけ
献立が組めても、全部同じような味だと食べてもらえません。
配分はこうです。
- 汁物 ── 薄く。出汁の味で
- 主菜 ── ここに味を寄せる。はっきりした味に
- 副菜 ── 中間。ひとつは酸味や香りで変化を
濃い味は、一食に一品で十分です。
副菜が2品あるなら、片方を酢の物や和え物にして、味の方向を変えてください。同じ醤油味が3品並ぶと、食卓がぼやけます。
摂ってほしいものに、味を寄せる
「味がしない」の記事で書いた話です。
主菜に味を寄せるのが基本ですが、卵を食べてほしいなら小鉢に、野菜を食べてほしいなら和え物に。 味が立っている一品が、いちばん食べてもらえます。
食感の配分
味だけでなく、食感にも幅を持たせてください。
ただしこれは、次の節に書く「変えない工夫」を試したうえでの話です。順番を間違えないでください。
全部がとろとろ、全部がやわらかいペースト。これが続くと、食事が単調になります。
本人の状態の範囲内で、変化をつける
もちろん、飲み込む力を超えた硬さを出してはいけません。でも、許される範囲の中でも、食感には幅があります。
- なめらかなもの(茶碗蒸し、豆腐、ポタージュ)
- やわらかいが形があるもの(煮物、煮魚)
- とろみでまとめたもの(あんかけ)
- 冷たいもの(ゼリー、寒天寄せ、果物)
温度の変化も食感のうちです。 温かいものばかりの中に、冷たい一品が入るだけで、食事の印象が変わります。
その前に ── いちばんの理想は、変えないことです
食感の話をする前に、順番として先に置いておきたいことがあります。
いちばんの理想は、これまで食べてきたものと、形も食感も変わらないまま食べられることです。
調理の現場で主にやっていたのは、次の2つでした。
- 見た目は同じまま、隠し包丁を入れる
- 噛む力に合わせて、茹でる時間・煮る時間を長くする
皿の上の見た目は、これまでと変わりません。 変えているのは、切り込みと火の入れ方だけです。
なぜ、そこまでするのか
理由があります。
「今までと同じものが食べられなくなっている」と、本人に思わせたくないからです。
刻まれたもの、ペースト状のものが出てくると、それだけで伝わってしまいます。 自分はもう、普通のものが食べられないのだと。
食事に時間がかかるときの記事に書いたとおり、「自分で食べられない」と気づいて食べなくなる方がいます。同じことが、皿の上でも起こります。
料理を変える前に、まず「変えずに食べられる方法」を探してください。
- 最初に見るべき3つのこと ── 硬さではなく、大きさの問題かもしれません
- やわらかくする5つの方法 ── 切り方と火の入れ方で、やわらかくできます
刻むのは、その先です。
ただし、無理はしないでください
念のため書いておきます。
飲み込む力を超えた形を、見た目のために出してはいけません。 安全が先です(形態は誰が決めるのかの記事)。
ここで言っているのは、同じ安全さを保ったまま、見た目を変えずに済む方法があるということです。
温度は、料理ごとに分けてください
もうひとつ、現場でこだわっていたことがあります。
温かい料理は温かく、冷たい料理は冷たく。
当たり前に聞こえますが、食べるのに時間がかかる方の場合、これがかなり難しくなります。
だから、器も温める・冷やす
料理だけでなく、器のほうも温めたり冷やしたりしていました。
- 温かい料理 → 器を湯で温めてから盛る
- 冷たい料理 → 器を冷やしてから盛る
冷たい器に温かい料理を盛ると、盛った瞬間から冷めていきます。 食べ終わるまでに40分かかる方には、これが効きます(食事に時間がかかるときの記事)。
家庭でも、これだけでできます
- 盛る前に、器に熱湯を回しかけて捨てる(それだけで違います)
- 冷たいものを出す器は、先に冷蔵庫へ
- 電子レンジで器ごと温める(耐熱のものなら)
「味がしない」の記事に書いたとおり、温かいものは味を強く感じます。 減塩している方ほど、温度が効きます。
同じ料理でも、器ひとつで別物になります。
1週間で考えてください
一食ごとに完璧を目指さないでください。 続きません。
主菜を回す
たんぱく質の種類を、週の中で回します。
- 魚(週3〜4回。やわらかく煮やすいので療養食に向いています)
- 肉(鶏のひき肉、ささみ、豚のやわらかい部位)
- 卵(茶碗蒸し、だし巻き、卵とじ。療養食の主力です)
- 豆腐・大豆製品(もっとも扱いやすい)
毎日違うものを出す必要はありません。1週間で見て、偏っていなければ十分です。
副菜は作り置き
ここで手を抜いてください。
- 煮物をまとめて作る(多めに作って2〜3日)
- 茹でた野菜を冷蔵・冷凍しておく(味をつける前の状態で)
- 和え衣だけ作っておく(ごま、白和えの衣)
味をつける前の状態で保存しておくのがコツです。 その日の献立に合わせて、味を変えられます。
同じ茹でほうれん草が、おひたしにも、白和えにも、味噌汁の具にもなります。
型を覚えると、応用が効きます
出汁とあんかけの記事でも書きましたが、型をひとつ覚えると、そこから何通りにも広がります。
親子丼の鶏肉を豚肉に変えれば、他人丼になります。
だし巻き卵も同じです。卵5個に出汁150ml。この比率を覚えておけば、あとは中に入れるものを変えるだけで何種類にもなります。
献立も同じです。
主食 + 汁物 + 主菜 + 副菜
この枠を持っていれば、「今日は何を作ろう」ではなく、「今日は主菜を何にしよう」だけを考えればよくなります。
考える量が、4分の1になります。
1週間の組み方の例
参考までに、考え方の例を挙げます。この通りに作る必要はありません。
| 汁物 | 主菜 | 副菜 | |
|---|---|---|---|
| 月 | 味噌汁(豆腐・わかめ) | 煮魚 | 青菜のおひたし |
| 火 | すまし汁(卵) | 鶏そぼろあんかけ | かぼちゃの煮物※ |
| 水 | 味噌汁(大根・油揚げ) | 茶碗蒸し | かぼちゃの煮物(残り) |
| 木 | けんちん汁 | ※汁物が主菜を兼ねる | 酢の物 |
| 金 | 味噌汁(じゃがいも) | 白身魚のあんかけ | 白和え |
| 土 | 粕汁 | ※汁物が主菜を兼ねる | 果物 |
| 日 | すまし汁 | だし巻き卵 | 煮物(まとめて作る日) |
見てほしいのは、木曜と土曜です。 具だくさんの汁物の日は、主菜を作っていません。
そして日曜に煮物をまとめて作り、翌週に回します。
毎日フルセットを作らない。 これが続けるための設計です。
食べられなかった日のこと
献立を組んでも、その通りに食べてもらえない日があります。
そういう日は、無理に取り戻さないでください。
- 次の食事で量を増やそうとしない
- 間食で補えるなら、それでいい(食事に時間がかかるときの記事)
- 1日で見て足りなければ、翌日で見る
献立は、食べてもらうための設計であって、達成すべき目標ではありません。
そして、食べられない日が続く場合や体重が減っている場合は、献立の工夫の範囲を超えています。早めにかかりつけ医に相談してください。
まとめ
- 汁物から決める。 水分・栄養・飲み込みやすさ・味のリセットを兼ねます
- 型は 主食+汁物+主菜+副菜。ひとつだけ覚える
- 味の濃いものは一食に一品。 基本は主菜へ
- まず「変えない」を試す。 見た目は同じまま、隠し包丁と火の入れ方で。「食べられなくなった」と思わせない
- そのうえで、食感に幅を持たせる。 全部とろとろにしない
- 温かいものは温かく、冷たいものは冷たく。 器も温める・冷やす
- 一食で完璧を目指さず、1週間で見る
- 副菜は味をつける前の状態で作り置き
- 汁物が主菜を兼ねる日を作ると、続きます
献立を毎日ゼロから考えるのをやめてください。 型を持てば、考えるのは主菜だけになります。
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この記事を書いた人
調理師の資格が取れる高校を卒業後、看護師として病院に勤務。集中治療室(ICU)を経て、再び食の世界へ。医療と調理の両方の現場から、家庭でできる療養食のことを書いています。
看護師/調理師/食育インストラクター/野菜ソムリエ
