「やわらかくすればいい」と言われても、実際にどうすればいいのか。
煮る時間を延ばせばいいのか。圧力鍋を買うべきか。ネットで見た酵素の話は本当なのか。
方法はいくつもありますが、それぞれ効くものと効かないものがあります。 何にでも効く万能な方法はありません。
この記事では5つの方法を、向き不向きとセットで整理します。
その前に ── まず切り方を疑ってください
やわらかくする前に、確認してほしいことがあります。
硬さではなく、大きさの問題かもしれないということです。
やわらかく煮た根菜でも、一口で収まらない大きさなら、歯型だけついて残ることがあります。この場合、いくら煮ても解決しません。一口で収まる大きさに切るだけで済みます。
やわらかくする工夫は、そのあとの話です。
1. 切り方を変える
もっとも手軽で、失敗がありません。
繊維を断つ
肉は繊維に対して直角に包丁を入れる。野菜も繊維の向きを見て、断つ方向に切る。同じ食材でも噛みやすさが変わります。
隠し包丁を入れる
表面に切り込みを入れておく技法です。見た目を保ったまま、噛み切りやすくなり、味も染みやすくなります。和食の基本技術で、家庭でもそのまま使えます。
大根や里芋には十字に。厚みのある肉には格子状に。
一口で収まる大きさに揃える
大小が混ざっていると、口の中での扱いが難しくなります。揃えることが大事です。
切るより「ちぎる」ほうがいい場合もあります
調理場での話をひとつ。こんにゃくは包丁で切るより、スプーンでちぎるほうが味がのります。 断面がざらざらになって、味が入る面積が増えるからです。
この原理は他の食材にも使えます。しいたけ、白菜、ゆでた大根。手でちぎる、スプーンで割る。 断面が粗いほど、味は入りやすくなります。
薄味にせざるを得ない食事では、この差が効きます。
こんにゃくそのものは、噛む力や飲み込みが心配な方には向きません。 弾力が強く、噛み切りにくい食材です。ここでお伝えしたいのは「断面を粗くすると味がのる」という原理のほうで、それを他の食材で使ってください。
向いているもの — 肉、根菜、いか
効きにくいもの — もともと繊維の強い葉物、パサつく食材
2. 加熱の仕方を変える
時間をかけて煮る
いちばん確実です。ただし煮崩れや、味が抜けるという問題があります。出汁で煮て、素材に水分を含ませる(含め煮)と、やわらかさと味の両立ができます。
圧力鍋を使う
短時間で芯までやわらかくなります。根菜、豆、かたまり肉に有効。
ただし万能ではありません。 加圧しすぎると崩れますし、繊維の強い肉は圧力をかけてもパサつくことがあります。
低い温度でゆっくり加熱する
肉は高温で加熱すると縮んで硬くなります。低めの温度でゆっくり火を入れると、やわらかく仕上がります。 炊飯器の保温や、湯せんでもできます。
向いているもの — 根菜、豆、かたまり肉、いも類
効きにくいもの — 葉物(煮すぎると溶ける)、魚(崩れる)
3. 下処理で分解する
食材に含まれる酵素を使って、加熱前にやわらかくする方法です。
使えるもの
- すりおろした玉ねぎ(漬け込む)
- 塩麹
- ヨーグルト
- 舞茸
- パイナップル、キウイ、いちじく
これらに含まれる成分が、肉のタンパク質に働きます。30分〜数時間漬けてから調理します。
注意点
漬けすぎると、身がぼろぼろになって逆にまとまりが悪くなります。 「長く漬けるほど良い」ではありません。
また、この方法は肉に対してのものです。野菜や魚には別の手が要ります。
向いているもの — 肉全般(特に赤身、かたまり肉)
効きにくいもの — 野菜、魚、いも類
下処理は、やわらかさだけの話ではありません
調理場でやっていた下処理を、3つ挙げます。どれも家庭でできます。
玉ねぎやねぎは、刻んでから水にさらす
臭みや辛み、ぬめりは水に溶ける性質があります。さらせば流れて消えます。匂いに敏感になっている方には、この一手間が効きます。
魚に塩を振るときは、尾を下にして少し斜めに置く
魚の繊維は尾のほうへ向いているので、出てきた水分が尾に向かって流れます。平らに置くと、匂いのついた水分が身の下に溜まったままになります。
葉物を茹でるときは、茎から先に入れる
茎と葉では元の硬さが違います。茎に合わせて茹でると、葉のほうがぐずぐずになる。先に茎を入れて、時間差で葉を加えます。
この3つ目は、介護食では特に大事です。同じ皿の中に硬いところと崩れたところが混ざっていると、口の中でまとまりません。 食感を揃えることは、やわらかくすることと同じくらい効きます。
4. 冷凍を利用する
意外に知られていない方法です。
野菜は一度凍らせると細胞が壊れ、解凍後にやわらかくなります。 大根、にんじん、白菜、きのこなど。加熱時間も短くなります。
やり方は簡単で、下茹でしてから冷凍するだけ。作り置きと兼ねられるのが利点です。
ただし食感は変わります。シャキシャキした歯ごたえは失われるので、それを大事にしたい料理には向きません。
向いているもの — 根菜、白菜、きのこ、豆腐(食感は大きく変わる)
効きにくいもの — 葉物のサラダ、揚げ物
5. つなぎと水分を足す
やわらかくするというより、パサつきを抑えてまとまりを作る方法です。
使えるもの
- 片栗粉をまぶしてから加熱(表面をコーティングし、水分を逃がさない)
- 豆腐を混ぜる(ハンバーグ、つくね)
- すりおろしたいもを混ぜる(山いも、じゃがいも)
- マヨネーズやヨーグルトを混ぜる(和え物)
パサつく食材は、やわらかくても口の中でバラバラになります。そこを補うのがこの方法です。
向いているもの — 鶏むね肉、ひき肉料理、白身魚、ゆで卵
効きにくいもの — 硬い根菜(そもそも噛めない問題は解決しない)
方法の選び方
食材と困りごとで選びます。
| こんなとき | まず試すこと |
|---|---|
| 肉が硬くて食べられない | 繊維を断つ → 下処理で漬ける → 低温で加熱 |
| 根菜が食べにくい | 一口大に切る → 隠し包丁 → 圧力鍋 |
| 口の中でパサついて残る | つなぎを足す、あんをかける |
| 味がしないと言われる | 断面を粗くする、下処理で臭みを取る |
| 同じ皿の中で食感がばらばら | 火の通り方を揃える(茎と葉を分けて茹でるなど) |
| 何を作ってもうまくいかない | やわらかさではなく、まとまりの問題かもしれません |
最後の行が大事です。やわらかくしても解決しないなら、問題は硬さではありません。 その場合はまとまりを作る方向に切り替えてください。
続けるための現実的な話
ここまで5つ書きましたが、全部やる必要はありませんし、毎食やる必要もありません。
ひとつだけ選ぶなら、切り方です。道具も時間もいらず、失敗もありません。
余裕があるときに作り置きをして、冷凍しておく。忙しい日は市販のやわらか食を使う。続けられる形にすることが、いちばん大事です。
介護は期間が読めません。最初から全力で作ると続きません。
続けるための考え方については、出汁とあんかけの記事の最後に詳しく書いています。基本の型をひとつ覚えて、食材と味を振る。 レシピを増やすより、そのほうが楽で、飽きません。
まとめ
- 切り方 — 繊維を断つ、隠し包丁、一口大に揃える。まずここから
- 加熱 — 時間、圧力鍋、低温。素材によって選ぶ
- 下処理 — 玉ねぎ、塩麹、果物の酵素。肉に有効
- 冷凍 — 野菜がやわらかくなる。作り置きと兼ねられる
- つなぎ — パサつきを抑えてまとめる
加えて、覚えておくと効くこと。
- 断面を粗くすると、味がのる(ちぎる、割る)
- 臭みは水に溶ける(刻んでからさらす)
- 食感を揃える(茎と葉を分けて茹でる)
そして、やわらかくしても解決しないときは、問題が硬さではない可能性を考えてください。
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この記事を書いた人
調理師の資格が取れる高校を卒業後、看護師として病院に勤務。集中治療室(ICU)を経て、再び食の世界へ。医療と調理の両方の現場から、家庭でできる療養食のことを書いています。
看護師/調理師/食育インストラクター/野菜ソムリエ
