介護食のパッケージには、やわらかさの区分が書かれています。
- 容易にかめる
- 歯ぐきでつぶせる
- 舌でつぶせる
- かまなくてよい
この4段階です。市販の介護食、どう選ぶかで、この表示の見方を書きました。
ただ、表示を読めるようになっても、まだ分からないことがあります。一段階違うと、実物はどれくらい違うのか。 「歯ぐきでつぶせる」と「舌でつぶせる」、言葉では隣り合っていますが、口に入れたときの差はどれほどなのか。
気になったので、実際に買って食べました。
先に、この記事の限界を書いておきます
正直に書いておきます。
- 食べたのは2品だけです
- 料理が違います(筑前煮と肉じゃが)。純粋な比較ではありません
- 写真はありません
- 食べたのは私です。嚥下の力は人によってまったく違います。 私がどう感じたかは、そのまま誰かに当てはまるものではありません
それでも書く価値があると思ったのは、予想とは逆の結果が出たからです。
食べたもの
① あいーと「筑前煮」
区分の表記:舌でつぶせる
イーエヌ大塚製薬/冷凍
ネット注文、商品691円+送料1,044円=1,735円(単品1つのみの注文)
加熱:500W・約2分20秒(製品の指定どおり)
② アサヒ「バランス献立 肉じゃが」
区分の表記:歯ぐきでつぶせる
レトルト/常温
226円
加熱:500W・約40秒(製品の指定どおり)
加熱の条件がそろっていないのは、それぞれの製品が指定している時間に従ったためです。
いちばん驚いたこと ── 逆転していました
温めて皿に出したとき、思っていたのと逆のことが起きていました。
やわらかい側であるはずの筑前煮のほうが、形が残っていたのです。
れんこんも、にんじんも、里芋も、切った形のまま入っていました。見れば筑前煮だと分かります。
一方、一段階かたい側の肉じゃがは、原型がありませんでした。 具材はすべて小さな四角に切りそろえられていて、何がじゃがいもで何が肉なのか、見ただけでは分かりません。
ここが大事なところです。
やわらかくする=刻む、ではありません。
「とりあえず刻む」の前に知ってほしいことでも書きましたが、食べやすくするために形を崩すのは、ひとつのやり方にすぎません。形を保ったまま、中だけをやわらかくする方法が実在します。 今回それを、自分の目で確かめました。
1日の献立を、どう組むかで、「いちばんの理想は、これまで食べてきたものと、形も食感も変わらないまま食べられること」と書きました。今までと同じものが食べられなくなっている、と本人に思わせたくないからです。
筑前煮の皿は、その理想に近いものでした。
箸が使えるかどうか
食べはじめて、もうひとつ気づいたことがあります。
筑前煮は、箸ではすくえませんでした。
やわらかすぎて、箸では持ち上がらない。形は残っているのに、挟もうとすると崩れてしまう。スプーンが必須です。
肉じゃがは、箸で掴めました。 小さく刻まれてはいますが、箸で持ち上がる程度の弾力は残っていました。
これは、見落とされやすい違いです。
入院前は、普通に食べていたのにで書いたように、入院や療養で落ちるもののひとつが、箸やスプーンを持つ力です。自分で食べたい方にとって、「箸で食べられるかどうか」は、やわらかさと同じくらい大事な条件になります。
- 自分で箸を使って食べたい方 → 箸で掴めるものを
- 介助して食べてもらう方 → 箸にこだわる必要はありません
やわらかければいい、という話ではないのです。
表示と、実際の口の中
ここは、はっきり書いておきます。
あいーとの筑前煮は、表示どおりでした。 舌で押すだけでつぶれました。噛む動作は要りませんでした。
アサヒの肉じゃがは、歯ぐきだけでは無理でした。 2〜3回は噛む必要がありました。
誤解のないように書いておきますが、これは私の口で試した結果です。私は噛む力も飲み込む力も落ちていません。
だからこそ、気になりました。噛む力が落ちていない私が、歯ぐきだけではつぶせなかった。 では、実際に歯ぐきでつぶすしかない方が口に入れたら、どうなるでしょうか。
区分の表示は、選ぶときの入口としては有効です。ただ、表示を見ただけで買って、そのまま出すのは避けたほうがいいと思いました。
はじめて買う商品は、できれば作る側が一口食べてみてください。 表示と実物が、自分の思っている通りとは限りません。
味のこと
調理師として気になったところを書きます。
筑前煮は、おいしかったです。 出汁が入っていて、素材の味も残っていました。やわらかくすると味がぼやけがちですが、これはぼやけていませんでした。
肉じゃがは、一癖ありました。 レトルト特有の、薬品のような味を感じました。食べ終わったあとも、その感じがしばらく口に残りました。
食欲が落ちている方にとって、後味が残ることは、次の一口を遠ざけます。 「味がしない」と言われたときで書いたのと逆の問題です。味がしないのもつらいですが、嫌な味が残るのも、同じくらい食べる気を削ぎます。
ただし、これは私がたまたま食べた1品での話です。同じシリーズでも品目によって違うはずですし、慣れれば気にならない方もいると思います。
値段のこと
筑前煮 691円、肉じゃが 226円。 商品そのものの値段で比べると、約3倍です。
ただ、私が実際に払ったのは1,735円でした。送料が1,044円かかっています。 単品を1つだけ取り寄せたからです。
ここは、買う前に知っておいたほうがいいところです。こういう冷凍の商品は、まとめ買いが前提になっています。1品だけ試してみたい、という買い方をすると、商品より送料のほうが高くなります。
試してみたいだけなら、
- 送料無料になるセットがないか先に確認する
- 複数品をまとめて頼んで、何回かに分けて食べる
このどちらかにしたほうがいいです。私は確認せずに1品だけ頼んで、送料で痛い目を見ました。
そのうえで、値段の傾向としては言えると思います。形を保ったままやわらかくしたものは、高くなります。 特別な加工が要るからです。691円と226円。3倍の差があります。
毎食それを使うのは、現実的ではありません。
だから、こう考えるのがいいと思います。
- ふだんは、手ごろなものや手作りで
- 本人が落ち込んでいるとき、行事のとき、気持ちを戻したいときに、形の残っているものを
全部を良いものにしようとすると続きません。作り置きと冷凍でも書いたとおり、介護は期間が読めません。使いどころを決めるほうが、長く続きます。
量のこと
どちらも、1食分としては足りませんでした。
おかず1品ぶんです。これだけで食事が完結するものではありません。主食と、汁物か、もう1品。そこは自分で足す前提です。
パッケージには分量が書かれていますが、実際に皿に出すと、思ったより少なく見えます。 はじめて買うときは、1食ぶんのつもりで買わないほうがいいです。
まとめ
今回2品を食べて、はっきりしたことがあります。
区分の表示は、やわらかさの目安でしかありません。
同じ「食べやすくする」でも、やり方がまったく違います。
- 形を残したまま、中をやわらかくする
- 小さく刻んで、食べやすくする
この2つは別のものです。 そして区分の表示には、その違いが出てきません。
選ぶときに見てほしいのは、区分だけではなく、
- 形が残っているか(本人が、何を食べているか分かるか)
- 箸で食べられるか(自分で食べたい方には重要)
- 後味が残らないか(食欲が落ちているときほど効きます)
このあたりです。
そして最後にもう一度。はじめての商品は、作る側が一口食べてみてください。 表示だけでは分からないことが、口に入れると一度で分かります。
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この記事を書いた人
調理師の資格が取れる高校を卒業後、看護師として病院に勤務。集中治療室(ICU)を経て、再び食の世界へ。医療と調理の両方の現場から、家庭でできる療養食のことを書いています。
看護師/調理師/食育インストラクター/野菜ソムリエ
