「きざみ食で」「とろみをつけてください」
退院のときに、そう言われた。その通りにしています。
でも、これは誰が、何を見て決めたのでしょうか。
そして、いつまで続ければいいのでしょうか。
家族には、そこが見えていません。渡された結果だけがあって、決め方が分からない。 だから、家に帰ってから迷います。
この記事では、病院で形態がどう決まっているかを書きます。
仕組みが分かると、家庭で何ができて、何ができないかが見えてきます。
形態は、ひとりで決めていません
病院では、いくつかの職種が関わって決まっていきます。病院によって体制は違いますが、おおむね次のような形です。
医師
食事の指示を出すのは医師です。 「この形態で」という指示が出て、それに沿って食事が用意されます。
病状、治療の段階、検査の結果。医学的な判断が入ります。
看護師
毎食の様子を見ています。
- むせていないか
- どのくらい食べているか
- 食べるのにどのくらいかかっているか
- 口の中に残っていないか
- 食後の様子
この観察が、判断のもとになります。 気になることがあれば、医師に報告します。
言語聴覚士(ST)
飲み込みの評価をする専門職です。
実際に飲み込む様子を見て、どのくらいの形態なら安全かを評価します。訓練も行います。
関わっている場合は、いちばん詳しい情報を持っている職種です。
管理栄養士
栄養の面から関わります。 必要な栄養量、塩分などの調整、形態に合わせた献立。
歯科・歯科衛生士
関わる場合があります。入れ歯の状態、口の中の状態は、食べる力に直結します(口を整える記事)。
判断のもとになっているもの
評価があります
飲み込みの状態を見るための評価があります。水を飲んでもらう、食べ物を食べてもらう。 その様子を専門職が見て判断します。
詳しい方法はここでは書きません。 家庭で真似できるものではありませんし、やってはいけません。 むせたときに対応できる体制がないところで試すのは危険です。
毎日の観察が積み重なっています
評価だけで決まるわけではありません。
毎食、誰かが見ています。 その積み重ねで、「この形態なら大丈夫そうだ」「まだ早い」という判断がされていきます。
ここが、病院と家庭のいちばんの違いです。
「水は飲めたのに、固形でむせる」のは、なぜか
最初に見るべき3つのことで書いたことの、背景の説明です。
水分と固形物では、飲み込み方が違います。
- 水分は、速く流れます。 口の中に留まらず、一気にのどへ行きます
- 固形物は、噛んでまとめる必要があります。 そのあとで飲み込みます
だから、片方ができても、もう片方ができないことがあります。
水は問題なく飲めるのに、ごはんでむせる。逆に、ごはんは食べられるのに水でむせる。どちらも起こります。
「水が飲めているから大丈夫」とは限りません。 ここは、家族が最も誤解しやすい部分です。
家庭には、判断する人がいません
ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。
病院では、毎日見ている人がいて、専門職がいて、何かあれば対応できる体制があります。
家庭には、そのどれもありません。
だから、形態を自己判断で変えないでください。 とくに、上げるときです。
下げるときより、上げるときが危ない
意外に思われるかもしれません。
きざみ食の記事で「必要以上に刻まないでください」と書きました。形態を下げすぎることには、確かに問題があります。
でも、上げるときのほうが、危険です。
下げすぎた場合に起きるのは、食べる力を使わなくなること、食事がつまらなくなること。時間をかけて効いてくる問題です。
上げすぎた場合に起きるのは、その場の事故です。
だから、上げるときこそ相談してください。
「食上げ」という考え方
きざみ食の記事で書いた、あえて形態を上げるという判断があります。
刻みすぎて口の中でばらけるくらいなら、一口大に戻したほうがまとまる。これは理屈として正しい。
ただし、これも本来は相談して決めることです。
記事に書いてあったから、で試さないでください。その人に当てはまるかどうかは、見た人にしか分かりません。
家庭にできるのは、「観察して伝える」ことです
判断はできません。でも、判断のもとになる情報は、家族しか持っていません。
病院では看護師がやっていた観察を、家では家族がやることになります。
見ておくこと
- むせているか。何でむせるか(水分か、固形か、特定のものか)
- 食事にかかる時間(延びてきていないか)
- 口の中に残っていないか(食後に確認)
- 食べる量(減っていないか)
- 体重(週に1回でも)
- 熱が出ることがあるか
- 食後にぐったりしていないか
伝え方
相談するとき、「食べにくそうです」だけでは伝わりません。
具体的に伝えてください。
| 伝わりにくい | 伝わる |
|---|---|
| 「むせます」 | 「水を飲むときにむせます。ごはんは大丈夫です」 |
| 「食べません」 | 「主食を半分残します。おかずは食べます」 |
| 「時間がかかります」 | 「前は20分でしたが、今は40分かかります」 |
| 「元気がないです」 | 「食後にぐったりして、そのまま寝てしまいます」 |
いつから、何が、どのくらい変わったか。 これが伝われば、判断ができます。
メモを残しておく
毎日つける必要はありません。変化があった日だけで十分です。
「◯月◯日、水でむせた」「◯月◯日から、時間が延びた」
相談のときに、これがあると話が早いです。
病院では、毎食の記録が残っています
一回の出来事ではなく、積み重ねで見ています
食事が始まっていれば、毎食、その様子を看護記録に残していました。
- どのくらい食べたか
- むせ込みがあったか
- 食べるのにかかった時間
- 食後の様子
だから、「いつから様子が変わってきたか」が分かります。
一回むせただけなら、誰にでもあることです。 元気な人でも、水を飲んでむせることはあります。
でも、記録が並ぶと違って見えてきます。
「先週から、水分のときだけむせている」
判断は、一回の場面からではなく、積み重ねから出てきます。 ここが大事なところです。
家庭には、この記録がありません
だから、家族が見ることになります。
とはいえ、毎食つける必要はありません。この記事の前半に書いたとおり、変化があった日だけで十分です。
「◯月◯日、水でむせた」
これが3つ並べば、もう記録です。 そして、その3つが同じことを指していれば、それは伝える価値のある情報になります。
食上げは、本人の希望から始まることがあります
「もっと普通のものが食べたい」
実際、形態を上げるきっかけが、本人からの要望であることは、よくありました。
制限された食事が続けば、当然そう思われます。
そのとき、どうしていたか
普段の様子を見ている看護師が、医師に相談していました。
そして、上げるか上げないかの判断は、医師に委ねます。
つまり、役割が分かれています。
- 言い出すのは、本人でいい
- 様子を伝えるのは、毎日見ている人
- 決めるのは、医師
看護師が決めているわけではありません。 毎日見ているからこそ情報は持っていますが、そこで判断はしません。
家庭でも、同じ形にできます
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。
本人が「もっと普通のものが食べたい」と言ったとき。
その場で、家族が決めないでください。
でも同時に、その希望を握りつぶさないでください。
「無理よ」で終わらせるのではなく、そのまま伝えてください。
家族がやるのは、看護師がやっていた役割です
- 本人の希望を、そのまま伝える(「普通のが食べたいと言っています」)
- 毎日見ている家族が、様子を伝える(何でむせるか、どのくらい食べるか、いつからか)
- 判断は、医師に委ねる
病院でやっていたことと、まったく同じ形です。
「判断する人がいない」のではありません
この記事の前半で、「家庭には判断する人がいません」と書きました。
正確に言い直します。
判断する人は、家の中にいないだけです。外にはいます。
かかりつけ医、訪問看護、言語聴覚士。つなげば、判断してもらえます。
家族が抱え込む必要はありません。やることは、見て、伝えることです。
そして、それは家族にしかできないことです。 毎日見ているのは、家族だけなのですから。
相談できる先
家に帰ってからでも、相談先はあります。
- かかりつけ医
- 訪問看護(利用していれば、食事の様子も見てもらえます)
- ケアマネジャー(介護保険を利用している場合。専門職につないでもらえます)
- 退院した病院の相談窓口
- 訪問歯科(口の中、入れ歯のこと)
- 地域包括支援センター(どこに相談していいか分からないとき)
言語聴覚士による評価を、在宅で受けられる場合もあります。 ケアマネジャーや主治医に聞いてみてください。
まとめ
- 形態は、医師・看護師・言語聴覚士・管理栄養士などが関わって決まっています
- 毎日の観察の積み重ねが、判断のもとになっています
- 水分と固形物では、飲み込み方が違う。 片方できても、もう片方ができないことがあります
- 家庭には、判断する人がいません
- 下げるときより、上げるときが危険です。 上げるときこそ相談を
- 家族にできるのは、観察して、具体的に伝えること
- 「いつから、何が、どのくらい」 を伝えると、判断ができます
- 一回の出来事ではなく、積み重ねで見る。 変化があった日だけメモを
- 本人が「普通のが食べたい」と言ったら、その場で決めない。でも握りつぶさない
- 言い出すのは本人、伝えるのは毎日見ている人、決めるのは医師
このサイトには、家庭でできる工夫をたくさん書いています。
でも、形態そのものを決めることだけは、家庭の仕事ではありません。 ここは、譲らないでください。
そして、判断する人がいないわけではありません。家の中にいないだけです。
家族がやることは、見て、伝えること。 それは、家族にしかできないことです。
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この記事を書いた人
調理師の資格が取れる高校を卒業後、看護師として病院に勤務。集中治療室(ICU)を経て、再び食の世界へ。医療と調理の両方の現場から、家庭でできる療養食のことを書いています。
看護師/調理師/食育インストラクター/野菜ソムリエ
