介護食がつらいのは、作るのが難しいからではありません。
毎日、続くからです。
一食だけなら、誰でも丁寧に作れます。それが1日3食、365日になったとき、丁寧さは続きません。
だから、仕組みで解決してください。
この記事は、献立の組み方の実務編です。どう作りためて、どう保存して、どう出すかを書きます。
最初に ── 衛生の話をさせてください
作り置きの記事で、まず書かなければいけないことがあります。
食べる方は、抵抗力が落ちていることがあります。 健康な人なら何ともない量の菌でも、体調を崩すことがあります。
ですから、普通の作り置きより、一段階慎重にしてください。
守ってほしい4つ
1. しっかり加熱する
中心まで熱が通るように。再加熱するときも、温めるのではなく、しっかり熱くしてください。 ぬるいのがいちばんよくありません。
2. 早く冷ます
作ったものを常温に放置しないでください。菌が増えるのは、この時間帯です。
- 浅い容器に広げる
- 保冷剤や氷水に当てる
- 粗熱が取れたら、すぐ冷蔵か冷凍へ
3. 小分けにする
大きな容器にまとめて入れると、冷めるのも遅く、取り出すたびに空気に触れます。
1食分ずつに分けてください。 解凍も早くなり、結果的に楽になります。
4. 清潔な道具で
取り分けるときは、乾いた清潔な箸やスプーンで。 食べかけのものを戻さない。
保存の目安
- 冷蔵:2〜3日で食べきる
- 冷凍:2〜3週間を目安に
冷凍でも、味と食感は落ちていきます。「腐らないから大丈夫」ではなく、「美味しいうちに」で回してください。
容器に日付を書いてください。 これをやるかどうかで、冷凍庫の中身が変わります。
迷ったら、捨ててください
「もったいない」は、ここでは通用しません。
匂いが違う、色が変わっている、粘りが出ている。少しでも迷ったら、食べさせないでください。
何を作りためるか
全部を作り置きしようとしないでください。向いているものと、向いていないものがあります。
向いているもの
だし
これがいちばん効きます。
出汁とあんかけの記事で書いたとおり、出汁は減塩の要です。でも毎回ひくのは続きません。
- まとめてひいて、冷蔵で2〜3日
- 製氷皿で冷凍する(一個ずつ使えます)
- 冷凍用の袋に薄く広げて冷凍し、必要な分だけ折って使う
だしさえあれば、あとは何とかなります。
煮物
まとめて作りやすく、味がしみて翌日のほうが美味しいものもあります。
根菜、かぼちゃ、里芋、高野豆腐、ひじき。 作り置きの定番です。
茹でた野菜(味をつけない状態で)
ここが、いちばん使える作り置きです。
味をつける前の状態で保存してください。
茹でたほうれん草が、その日の献立に合わせて、おひたしにも、白和えにも、味噌汁の具にもなります。味をつけてしまうと、その料理にしかなりません。
やわらかくする5つの方法で書いたとおり、茎から茹でて食感を揃えるところまでやっておけば、使うときに手間がありません。
そぼろ、ひき肉を炒めたもの
冷凍向きで、応用が広いです。あんにも、卵とじにも、野菜に混ぜても使えます。
ペースト状にしたもの
かぼちゃ、里芋、じゃがいも。裏ごしやミキサーの手間は、まとめてやったほうが圧倒的に楽です。
製氷皿で冷凍しておくと、汁物に落としてとろみをつけたり、そのまま副菜にしたりできます。
あんのもと
だしに調味料を合わせたものを、作り置きしておく。使うときに温めて、水溶き片栗粉でとろみをつけるだけにしておきます。
出汁とあんかけの記事で書いたとおり、とろみは作り置きに向きません。 とろみをつける前の状態で保存するのが正解です。
向いていないもの
とろみをつけたもの
時間が経つと、とろみの状態が変わります。 片栗粉のあんは、冷めて固まり、再加熱すると水が出ることがあります。
とろみは、食べる直前につけてください。
水分の多い生野菜
冷凍すると、解凍したときに水が出て、食感が悪くなります。
豆腐
冷凍すると、スポンジ状になります。 高野豆腐のようになるので、やわらかさを求めるなら向きません。
じゃがいも(角切りのまま)
冷凍するとボソボソになります。ペーストにしてからなら冷凍できます。
冷凍のコツ
平らにする
袋に入れて、平らにして冷凍してください。
- 早く凍る(品質が落ちにくい)
- 早く解ける
- 立てて保存でき、場所を取らない
厚みがあると、中まで凍るのに時間がかかります。 その間に品質が落ちます。
製氷皿を使う
だし、ペースト、あんのもと。少量ずつ使いたいものは、製氷皿が便利です。
凍ったら袋に移し替えれば、製氷皿は次に使えます。
冷凍庫が埋まる問題
宅配の選び方の記事でも書きましたが、これは本当に起こります。
宅配の冷凍弁当を取っていると、作り置きを入れる場所がなくなります。
宅配を使うなら、作り置きは常温・冷蔵でできるものに寄せる。 あるいは、宅配の届く日を調整する。 先に決めておいてください。
週に一度の「仕込みの日」
まとめてやる日を決める
毎日少しずつ作り置きをしようとすると、結局やりません。
週に一度、作る日を決めてください。 その日に、だしをひいて、野菜を茹でて、煮物を作る。
1日の献立の記事の1週間の表で、日曜に煮物をまとめて作る日を置いたのは、この考え方です。
2時間で終わる形にする
長時間かかる仕込みは、続きません。
- だしをひく(その間に他のことをする)
- 野菜をまとめて茹でる(同じ鍋で、火の通りにくいものから順に)
- 煮物を1〜2品
- そぼろを1種類
これで2時間かからないはずです。 全部やろうとせず、この日はここまで、と決めてください。
同じ鍋を使い回す
調理場での考え方です。
茹でる順番を、味と色の薄いものからにすると、湯を替えずに済みます。
そして茹で汁に旨みが出ているものは、汁物に使えます。
洗い物が減るということは、続けやすくなるということです。
調理場でやっていたこと
比率を覚えると、作り置きが楽になります
出汁とあんかけの記事で「型をひとつ覚える」と書きました。作り置きでも同じです。
出汁のベースさえ決まっていれば、加える調味料の割合を変えるだけで、味の種類が増えていきます。
実際に使っていた比率を、2つ挙げます。
お吸い物
- 出汁 500ml
- 薄口醤油 小さじ1
- 塩 小さじ1/2
- 酒 小さじ1
「味がしない」の記事に書いたとおり、汁物は薄くて構いません。 出汁の味が立っていれば、これで十分です。
野菜の煮物
- 出汁 500ml
- 薄口醤油 大さじ4と小さじ1/2
- みりん 大さじ4と小さじ1/2
- 酒 大さじ4と小さじ1/2
この3つは、全部同じ量です。 覚えるのは「出汁500に対して、それぞれ大さじ4と小さじ1/2」だけ。
実は、きれいな比率になっています
大さじ4と小さじ1/2は、62.5mlです。出汁500mlに対して、ちょうど8分の1。
つまり、
出汁8 : 醤油1 : みりん1 : 酒1
これだけです。量を増やすときも減らすときも、この比率でそのまま計算できます。
具材によって、少し調整してください
比率は出発点です。
- 味が入りにくいもの(根菜、こんにゃく、厚揚げ)── 少し濃いめに
- 味を吸いやすいもの(高野豆腐、麩、なす)── 少し薄めに
- 旨みが出るもの(きのこ、鶏)── 薄めでも味が決まります
調整の幅を持っているのが、家庭の強みです。
保存で、実際にやっていたこと
ここからが、調理場ならではの話です。どちらも家庭でそのまま使えます。
「地洗い」── 容器に移す前に、地で洗う
煮上がったものを保存容器に移すとき、そのまま移していませんでした。
もう一度、地(じ/調味液のこと)で洗ってから移します。
理由は2つあります。
ひとつは、味がぶれないこと。 水で洗うと味が薄まりますが、同じ地で洗えば味は変わりません。
もうひとつが大事です。余分な水分を落とせます。
煮上がった食材には、煮汁とは別の水分がついています。それを持ち込まないことで、日持ちが変わります。
「床替え」── 出てきた水分を、捨てる
保存している間、食材からは水分が出続けます。
その水分が、傷む原因になります。
だから、容器の底に厚手のキッチンペーパーを敷いて、出た水分を吸わせていました。 そして定期的に、そのペーパーを替えます。
これが「床替え」です。
替えるのは、使っていない日でも必要です。 水分は、こちらが料理をするかどうかに関係なく出てきます。
ご家庭でも、そのままできます。
- 保存容器の底に、厚手のキッチンペーパーを1枚
- 1〜2日ごとに、そのペーパーを替える
- 替えるときに、匂いと見た目も一緒に確認する
紙を替えるついでに中身を見る。 これが、いちばん続く確認方法です。
日持ちの話は、正直に書きます
ここは、はっきりさせておきます。
上のやり方をしていた調理場でも、3日周期で回していました。 どれだけもっても5日、という感覚です。
業務用の冷蔵設備があって、毎日手を入れる人がいて、それでもその日数です。
ですから、家庭で1週間もたせようとしないでください。
この記事の前半に書いたとおり、冷蔵なら2〜3日で食べきる。 これを守ってください。
食べる方は、抵抗力が落ちていることがあります。 健康な人なら何ともない量でも、体調を崩すことがあります。
迷ったら、捨ててください。
出すときの工夫
作り置きは、出し方で印象が決まります。
温め直しは、しっかりと
衛生の面でも、味の面でも。「味がしない」の記事で書いたとおり、冷めたものは味を感じにくくなります。
とろみは、その場でつける
上に書いたとおりです。作り置きしたものを温めて、最後に水溶き片栗粉。
出汁とあんかけの記事の「入れるときは火を下げる。混ざったら上げる」を思い出してください。
一品でも、その日に作ったものを足す
これが効きます。
全部が作り置きだと、食卓が「昨日と同じ」になります。
- 汁物だけはその日に
- 薬味を足す(生姜、ねぎ、しそ)
- 香りのあるものを最後に
「味がしない」の記事で書いたとおり、香りは味覚が弱くなっても届きます。 作り置きに、香りを足すだけで印象が変わります。
器に移す
市販品の選び方の記事と同じです。保存容器のまま出さないでください。
完璧にやらないでください
最後に、これを書いておきます。
作り置きができなかった週があっても構いません。
その週は市販品と宅配で回してください。市販品の選び方の記事で書いたとおり、動けない日のための買い置きは、そのためにあります。
作り置きは、楽をするための仕組みです。「作り置きをしなければ」と思い始めたら、それは本末転倒です。
続けることが目的で、作り置きは手段です。
まとめ
衛生(ここは譲らないでください)
- しっかり加熱する/早く冷ます/小分けにする/清潔な道具で
- 冷蔵2〜3日、冷凍2〜3週間。日付を書く
- 迷ったら捨てる
- 調理場でも3日周期、長くて5日。 家庭で1週間もたせようとしないでください
比率を覚える
- 煮物は 出汁8:薄口醤油1:みりん1:酒1(出汁500mlなら、各 大さじ4と小さじ1/2)
- お吸い物は 出汁500mlに 薄口小さじ1・塩小さじ1/2・酒小さじ1
- 具材によって少し濃く/薄く。 比率は出発点です
保存のひと手間
- 地洗い ── 容器に移す前に、地でもう一度洗う(味がぶれず、余分な水分が落ちる)
- 床替え ── 底に厚手のキッチンペーパー。1〜2日ごとに替える。 替えるついでに中身を見る
作りためるもの
- だし(製氷皿・薄く冷凍)── いちばん効きます
- 煮物、そぼろ、ペースト
- 茹でた野菜は、味をつけない状態で
- あんのもと(とろみはつけずに)
向いていないもの
- とろみをつけたもの(食べる直前につける)
- 生野菜、豆腐、角切りのじゃがいも
仕組み
- 週に一度、2時間の仕込みの日
- 平らにして冷凍/製氷皿/日付を書く
- 冷凍庫の場所を、先に決めておく
出すとき
- しっかり温める/とろみはその場で
- 一品でも、その日のものを足す(汁物、薬味、香り)
- 器に移す
続けることが目的です。 作り置きは、そのための手段でしかありません。
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この記事を書いた人
調理師の資格が取れる高校を卒業後、看護師として病院に勤務。集中治療室(ICU)を経て、再び食の世界へ。医療と調理の両方の現場から、家庭でできる療養食のことを書いています。
看護師/調理師/食育インストラクター/野菜ソムリエ
